はぴくら
共同代表 堀場 睦未
誰もが、自分らしくいられる場所を持てるように——自身の挫折経験から始まった、不登校の中高生の居場所づくり

挫折から始まった原点——「自分には価値がないのではないか」
はぴくらは、主な活動内容として、不登校の中高生向けのオンラインコミュニティ「はぴのす」を運営されています。ここでは、共同代表を務める堀場睦未氏に、活動の原点と、はぴのすで大切にしていることを伺いました。
Q. 今の活動を始めようと思った、一番のきっかけを教えてください。
今の活動の原点は、高校時代の経験にあります。
私は部活動の強豪校に所属していました。生まれつき左目が見えないという、視覚のハンデがあるのですが、それが理由となり、レギュラーメンバーから外されてしまったことがあります。
自分なりに努力していましたが、生まれ持ったものは、自分の力だけではどうすることもできません。その経験を通して、目指していたものを諦めなければならないという挫折を味わいました。
この高校時代の経験が、現在の活動につながる原点になっています。
Q. その経験によって、ご自身の考え方や価値観はどのように変化しましたか。
強豪校という環境の中で、自分が活躍できない、メンバーに選ばれないという経験をしました。努力しても結果がついてこない状況が続く中で、「自分には価値がないのではないか」「自分は必要とされていないのではないか」と考えるようになっていました。
人生で初めての挫折だったので、自分自身に対して、否定的な思いを持っていたのだと思います。
しかし、高校を卒業して大学生になり、学生団体やサークルに入ったことで、周囲にいる人たちが変わりました。
私に対して肯定的な言葉をかけてくれる人や、私自身の可能性を信じてくれる人たちに出会いました。そうした人たちと関わる中で、「自分にも価値があるのではないか」と思えるようになりました。
自分も誰かから感謝される存在になれるかもしれない。これまでとは違う自分になれるかもしれない。少しずつ、そのように自分の可能性を信じられるようになりました。
高校時代には否定的だった自分自身への見方が、人との出会いによって変わっていったのだと思います。
Q. 居場所をつくろうと決意した出来事はありましたか。
自分自身の経験から、同じように苦しんでいる人や、過去の自分のように苦しい環境にいる子どもたちのために、何かできることはないだろうかと考えていた時期がありました。
ただ、思いはあっても、具体的に何をすればよいのかまでは分かっていませんでした。
その考えを、現在の師匠にあたる方に相談したところ、「一緒に不登校の子どもたちの居場所づくりをやってくれないか」と声をかけていただきました。
その機会をいただいたことが、大きなきっかけとなりました。そこから、現在の居場所づくりが始まりました。
Q. 堀場さんの人生を大きく変えた出来事は、やはり高校時代の経験でしょうか。
そうですね。強豪校で過ごした高校時代の3年間は、私の人生に大きな影響を与えたと思います。
高校生になるまでは、それほど大きな挫折を経験したことがありませんでした。特に大きな不自由を感じることなく、楽しく過ごしてきたと思います。
しかし、高校生になって初めて、自分が活躍できないことや、努力しても結果がついてこないことを経験しました。さらに、生まれ持ったハンデによって、目指していたものを諦めなければならない状況にも直面しました。
どれだけ頑張っても、自分が目指しているものには手が届かない。そこで初めて大きな挫折を味わいました。
当時は苦しい経験でしたが、その経験があったからこそ、今、同じように苦しさを抱えている人のことを考えるようになったのだと思います。
“「カメはカメなりに地道な努力を続ければ、必ずウサギを追い越す瞬間が来る。人と比較せず、自分なりのペースで進んでいけばいい」”
支えてくれた人と、「カメはカメなり」という言葉
Q. 子どもの頃は、どのような性格でしたか。
小学生の頃までは、家ではうるさいのですが、学校ではおとなしい子どもでした。人見知りをするタイプで、自分の殻にこもるようなところもあったと思います。
それが中学生になると、クラスの中でお茶目な役割を担うようになりました。みんなの中心にいて、周りの人を笑わせることが好きな性格になっていきました。
Q. 中学生の頃の経験も、現在の活動につながっていますか。
中学生のときに、とても素敵な担任の先生と出会いました。その先生は、私の良さを活かしてくれる方でした。
先生との出会いがあったからこそ、中学生時代を楽しく過ごすことができたのだと思います。
一方で、高校生になってからは、自分自身に対して否定的になってしまいました。中学生の頃と高校生の頃では、自分の感じ方や過ごし方に大きな違いがありました。
そのギャップを経験したことから、現在の居場所づくりでは、中学生の頃に出会った先生のように、子どもたちと一緒に楽しめる存在でありたいと思っています。
そして、一人ひとりの可能性を信じられる存在になりたい。そのような思いで活動を行っています。
Q. 苦しい時期に、支えになった人や言葉はありますか。
大きく二つあります。
一つ目は、家族の存在です。
私が苦しい時期を過ごしていたときも、家族は私に事情を深く聞くのではなく、ただそばにいてくれました。
高校時代は朝早くに家を出ていたのですが、母は朝4時台に起きて、毎日お弁当を作ってくれました。父も、学校への送り迎えをしてくれました。
何かを言われたから支えられたというよりも、何も言わずにそばにいてくれたことが、大きな支えになっていました。
二つ目は、高校時代の顧問の先生から言われた「カメはカメなり」という言葉です。
ウサギとカメの物語では、能力の高いウサギが先に進んでいきます。一方で、カメはゆっくりとした歩みですが、確実に前へ進み続け、最終的にはウサギよりも先にゴールします。
顧問の先生は、「自分がカメだったとしたら、カメはカメなりに地道な努力を続ければ、必ずウサギを追い越す瞬間が来る。人と比較せず、自分なりのペースで進んでいけばいい」と教えてくれました。
私自身は、カメ側の人間だと感じていました。それでも、「カメなりに頑張ろう」と思うことができました。
この言葉に支えられながら、自分なりにコツコツと努力を続けることができたのだと思います。
“私にとって居場所とは、ありのままでいられる場所です。”
社会に感じる課題と、私にとっての「居場所」
Q. 不登校の子どもたちと向き合う中で、社会にどのような課題を感じていますか。
私が課題だと感じているのは、不登校そのものではありません。学校以外の居場所という選択肢が、世の中にまだ十分にないことです。
フリースクールなどの第三の居場所は、都市部に集中していることが多いと感じています。地方へ行くほど、子どもたちが選べる場所は限られてしまいます。
また、学校以外の居場所を選ぶことには、経済的な理由によるハードルもあると考えています。
子どもが学校に行けないときに、学校へ戻ることだけが選択肢になるのではなく、ほかにも安心して過ごせる場所がある。そのような社会にしていくためには、社会全体で居場所を増やしていく必要があると思います。
そして、学校以外の場所を選ぶことも、一つの選択肢として、より広く知られるようにしていくことが必要だと考えています。
Q. 堀場さんにとって、「居場所」とはどのような場所ですか。
私にとって居場所とは、ありのままでいられる場所です。
子どもたちがありのままでいられる場所としては、家や学校、習い事、塾など、さまざまな場所があると思います。
その中で、その子にとって一つでも、ありのままの自分でいられる場所があればよいと考えています。
安心できる場所があれば、その子が将来に向かって何かを頑張りたいと思ったときに、そこから一歩を踏み出すことができます。また、外の世界で困難に直面したときにも、帰ることができます。
安心して、安全にいられる空間があること、自分を取り繕わなくても、ありのままで過ごせる場所があることが、とても重要だと思っています。
“一人の人間として、対等に関わることです。”
一人の人間として、対等に——活動を続ける理由
Q. 子どもたちと接するとき、一番大切にしていることを教えてください。
一人の人間として、対等に関わることです。
私たちは、何かを教える先生という立場でもなく、大人として上から関わる存在でもありません。
少し斜めの関係にいる、お兄さんやお姉さんのような立場を意識しています。
一緒に雑談を楽しんだり、ゲームをしたり、他愛もない話をしたりします。時には、子どもからの相談に乗ることもあります。
対等な関係であることが、信頼関係につながると考えています。何かをさせようとするのではなく、まず一緒に過ごし、楽しむことを大切にしています。
Q. 活動を続ける中で、忘れられない子どもとの出来事はありますか。
はぴのすでは、オンラインでの活動だけでなく、「オフ会」と呼んでいる、実際に対面で会う機会も設けています。
そのオフ会に、関東に住んでいる子が名古屋まで来てくれたことがありました。
その子は学校になかなか行くことができず、外へ出ることにも難しさを感じていました。外に出ると、近所の友達や知っている人に会うかもしれない。それが怖くて、外に出られないと感じていた子です。
その子が、「名古屋だったら行ける」と言って、実際に来てくれました。
その瞬間は、本当にうれしかったです。
その後、その子は友達と一緒に、人生で初めてカラオケにも行きました。その子にとって、とてもよい機会になったのではないかと思っています。
学校や自宅の周辺では外へ出ることが難しくても、場所や関わる人が変われば、一歩を踏み出せることがあります。
その経験は、今も強く印象に残っています。
Q. 活動をやめたくなったり、重く悩んだりした時期はありましたか。
やめたいと思ったことや、重く悩んだ時期は、特にありません。
自分自身が楽しみながら活動しているからこそ、やめたいと思った瞬間が思い浮かばないと思います。
Q. 活動を続けている理由は何でしょうか。
一言で言うと、私自身が楽しんでいるからです。
自分自身の過去の経験から、「このような場所が世の中にあったらよいのではないか」「こういうものをつくりたい」という思いが生まれて、そこから実際にコミュニティを立ち上げ、今は、その場所を必要としてくれている子どもたちがいます。
子どもから、「この場所があるから助かった」と感謝の気持ちを伝えてもらえることもあります。そのような場所をつくれていることが、何よりもうれしいです。
自分の経験を活かしながら、この場所をもっと多くの子どもたちに届けたい。そのような思いで活動を続けています。
“誰もが輝ける場所は必ずあると私は考えています。その子に合う環境は、世の中に無数にあると思っています。”
オンラインコミュニティ「はぴのす」——顔を出さなくても、つながれる場所
Q. 現在は、どのような居場所づくりを行っていますか。
不登校の中高生がオンラインで集まることのできるコミュニティ「はぴのす」を運営しています。
はぴのすでは、心理カウンセラーの方による心の学びや、面白い大人の話を聞く会などを行っています。
子どもたちが、これまで知らなかった考え方や人と出会える環境をつくることを大切にしています。
また、交流会などを通して、子どもたち同士が横のつながりを持てるような機会も設けています。
何かを学ぶことだけを目的にするのではなく、人と出会い、つながり、自分のペースで参加できる居場所をつくっています。
Q. ほかの支援機関やフリースクールとの違いは、どのようなところにありますか。
大きく二つあります。
一つ目は、大学生を中心とした若い人たちが運営していることです。
運営する大学生の中には、不登校を経験した人や、通信制高校へ進学した後に大学へ通っている人など、多様な背景を持つ人がいます。
はぴのすに参加する中高生にとって、大学生は年齢が近く、身近に感じやすい存在だと思います。そのような若者たちが中心となって運営していることが、はぴのすの特徴の一つです。
二つ目は、オンラインで運営していることです。
はぴのすに参加するときは、画面をオフにしていても構いません。声を出さずに参加することもできます。
人と関わることに怖さを感じている子や、コミュニケーションに苦手意識のある子にとって、最初から顔を出して話すことは、高いハードルになる場合があります。
はぴのすでは、顔を映さず、声を出さなくても、チャットなどを使ってやり取りすることができます。
子ども自身が無理のない方法を選びながら、人や社会とつながることができる、その意味で、参加へのハードルが低い環境だと考えています。
また、はぴのすでは、どのような環境や状況にある子どもでも受け入れることを大切にしています。
Q. どのような子どもや保護者に、はぴのすを届けたいと考えていますか。
不登校という経験を通して、自分に自信を持てなくなっている子どもたちに届けたいと考えています。
「ほかの子は学校に通えているのに、自分は通えていない」「周りの人が当たり前にできていることを、自分はできない」と悩んでいる子どもたちがいます。
しかし、誰もが輝ける場所は必ずあると私は考えています。その子に合う環境は、世の中に無数にあると思っています。
今いる環境でうまくいかないからといって、その子自身に価値がないわけではありません。
その子の可能性を信じて関わっていきたいと思っていますし、悩んでいる子どもたちや、そのようなお子さんを育てている保護者の方に、はぴのすの存在を届けていきたいです。
Q. 活動を通して、子どもたちにはどのような変化が見られましたか。
さまざまな変化があります。
例えば、参加した当初は画面をオンにすることが難しかった子が、少しずつ顔を出せるようになり、積極的にほかの参加者と交流するようになったことがあります。
また、はぴのすでの経験を、「人とコミュニケーションを取るためのリハビリになった」と話してくれた子もいます。
その子は現在、自分もスタッフとしてはぴのすに貢献したいという思いから、運営側に回ってくれています。
最初から大きな変化を求めているわけではありません。
画面をオフにしたまま参加することや、チャットで一言やり取りすることも、その子にとっては大切な一歩です。
それぞれのペースで人と関わり、少しずつ自分に合った参加の仕方を見つけていく。その中で、子どもたちの成長や変化を見ることができています。
“今いる場所でうまくいっていないからといって、その人自身に価値がないわけではありません。”
誰もが自分らしく生きられる社会へ
Q. 4年目を迎えた現在、運営上の課題をどのように捉えていますか。
一番の課題は、はぴのすの存在がまだ十分に広がっていないことです。
はぴのすという居場所を、まだまだ多くの方に知ってもらえていないと感じています。
不登校の子どもは、現在35万人いると言われています。一方で、はぴのすに参加しているのは、現在約15名です。
居場所を必要としていながら、まだはぴのすやほかの居場所につながることができていない子どもたちが、多くいるのではないかと感じています。
はぴのすをもっと多くの方に知ってもらい、必要としている子どもたちに届けていくことが、現在の大きな課題です。
Q. 今後、居場所づくりの活動をどのように広げていきたいですか。
フリースクールなどの居場所は、都市部に集中している現状があります。
そのため、学校以外の居場所という選択肢が特に少ない、地方の子どもたちへ届けていきたいと考えています。
はぴのすはオンラインで活動しているため、住んでいる地域にかかわらず参加することができます。
近くに通える居場所がない子どもにとっても、社会や人とつながることのできる選択肢になれたらと思っています。
Q. 地域や周囲の方とは、今後どのような関わりを増やしていきたいですか。
不登校の子どもたちを一緒に支えるつながりを、地域からつくっていきたいと考えています。
不登校の子どもたちは、誰かの役に立つことや、誰かから感謝される経験が少なくなりやすいのではないかと感じています。
地域の方々と手を取り合いながら、子どもたちが誰かと関わり、役に立ったり、感謝されたりすることのできる環境をつくりたいです。
はぴのすは基本的にオンラインで活動していますが、地域のお祭りなどでブースを出し、地域の中へ出ていく活動も行っています。
これからも、オンラインだけでなく、対面で交流する機会をつくっていきたいと思っています。
子どもたちが地域の方々と触れ合い、自分も地域の一員であると感じられるような環境をつくっていきたいです。
Q. 「誰もが居場所を持ち、自分らしく生きられる社会」とは、どのような景色でしょうか。
まずは、はぴのすをより多くの子どもたちに届けることです。
参加する人数を増やすことだけが目的ではありませんが、はぴのすを必要としている子どもたちに、きちんとその存在を届けていきたいと考えています。
また、将来的には、不登校という状況によって自分らしく生きられていない方だけでなく、家庭環境や障がいなど、さまざまな事情によって生きづらさを抱えている方にも関わっていきたいです。
置かれている環境や、生まれ持ったものによって、自分らしく生きることを諦めなければならない人がいます。
そのような方々も、自分に合う場所や人と出会い、自分らしく生きられる世の中にしていけるように、はぴくらを発展させていきたいと考えています。
Q. 最後に、今、生きづらさを感じている子どもや保護者、そして社会に向けて伝えたいことをお願いします。
今、しんどさを抱えている方や、つらい気持ちになっている方もいると思います。
私は、必ずその人が輝ける環境があると信じています。
私自身、高校時代には、努力をしても結果がついてこず、「自分には価値がないのではないか」と感じていました。
しかし、その後、自分の可能性を信じてくれる人や、自分を肯定してくれる人たちに出会ったことで、少しずつ自分の可能性を信じられるようになりました。
今いる場所でうまくいっていないからといって、その人自身に価値がないわけではありません。
環境や関わる人が変わることで、自分の良さを発揮できることもあります。
私も、関わる方々の可能性を信じ続けながら、一人ひとりが自分らしく生きられる、よりよい社会をつくっていきたいと考えています。