春日井製菓おかしな実験室
原 智彦
愛され続けるために、まず自分たちから愛する。仲間とともに、世の中をちょっと面白くする。

ネタづくり、仲間づくり、きっかけづくり——「おかしな実験室」という部署
Q. まず、「おかしな実験室」はどのような活動をしている部署なのでしょうか?
もともとは企業広報の部署でしたが、そこから発展して、今は「ネタづくり、仲間づくり、きっかけづくり」の3つを軸に活動しています。
ネタづくりはコーポレートサイトや公式SNSの運用、写真撮影やプレスリリース作成など、春日井製菓を知ってもらい、好きになってもらうためのコンテンツをつくる仕事です。仲間づくりは、お菓子を召し上がるエンドユーザーやお取引先、そしてまだ当社の商品を召し上がったことがない人たちとの関係性を高め、仲間になる活動です。きっかけづくりは、新規事業の種をつくる仕事です。
2022年2月に「おかしな実験室」という部署をつくりました。お菓子を生かして、人と人が面白おかしくつながる部署にしたかったんです。人と人が面白くつながる実験で、社会をちょっと明るくする部署だと思ってもらえたらいいですね。
Q. 原さんご自身は、どのような思いでこの仕事に携わっているのでしょうか?
僕は「世の中をちょっと面白くする」を自分の使命だと思って生きています。自分が死んだ時に「あの人、世の中をちょっと面白くしたね」と言われたらいいなと思っているんです。
“人と人が面白くつながる実験で、社会をちょっと明るくする部署だと思ってもらえたらいいですね”
「人と同じでいいと思うな」——価値観をつくってきた言葉
Q. そうした考え方には、どのような経験が影響していますか?
大きな影響を受けたのは父です。小さい頃から「人と同じでいいと思うな」と言われて育ちました。この言葉は大人になってからもずっと自分の中に残っていて、自分のアイデンティティのひとつです。
学生時代にアメリカ留学中に雑誌に書いてあった「追い風は自分で作る」という広告の言葉も残っています。言葉や文化の違いでいろいろ戸惑っていた時に「誰かが追い風を吹かせてくれるのではなく、自分で作るんだ」と悟りました。
仕事では、外資の広告会社にいた時に「顧客のためでも自分のためでもなく、ブランドのために働け」という考えに大きく影響を受けました。若い頃は、お客さんからお金をいただく以上、お客さんに従うのが仕事だと思っていました。でも、担当するブランドが愛されていくために何が必要なのかを考え、そして「たとえお客さんの意見でも違うと思えば抗え」という言葉には勇気をもらい、その後の仕事の指針にもなりました。
春日井製菓に入る前、当時社長で今の会長と面談した時に「自分の考えと違う人と働きたい」と言われたことにも衝撃を受けました。自分の考えに従ってほしいという経営者が多かったので、すごく驚きましたが、こんな人と働きたいと思い、入社を決めました。
もう一つ、仕事のど真ん中に据えているのが「夢見て行い、考えて祈る」という言葉です。僕はこれをPDCAとして使っています。
PDCAの「P(目標)」って、達成できる現実的なものになりがちなので、ワクワクしないことが多い。でも「夢」なら現実から飛躍したところに置ける。「こうなったらいいな」という皆の胸が高鳴る夢を見て、そのためにガンガン行動しながら考えに考えて、最後には「もう祈るしかない」と思えるくらいトコトンやりきる。僕にとって、とても大きな影響を受けた言葉です。
“自分の考えと違う人と働きたい。当時の社長のこの言葉で入社を決めました。”
代理人ではなく、当事者として——企業を人気者にする部署
Q. 広告会社から、ブランドを持つ企業の中へ入ろうと思った理由は何だったのでしょうか?
広告代理業にいると、「もっとこうしたらブランドのためになるのに」と思っても、どうしても入れない領域がありました。あくまで外部の立場で、広告をする時にだけ関与する存在だからです。
なので、いつかブランドを自分で育てたいと思うようになりました。春日井製菓に来て、今僕たちが扱っているブランドは商品だけではなく「企業」。
企業がもっと愛されるようになるにはどうしたらいいのかを考え、実現していく。作り手と食べ手の距離を近づけていく。それを代理人ではなく、当事者としてやりたかったんです。
愛されたいなら、まず愛する——「愛され続ける」の解釈
Q. 春日井製菓の経営理念と、それをどう業務に反映しているかを教えてください。
春日井製菓の経営理念は「おいしくて、安心して多くの人々に愛され続けるお菓子作り」です。社員の仕事は、この経営理念を実現することだと思っています。だから自分なりに、「愛され続ける」とはどういうことなのかを考えました。
「好かれる」ではなく、「愛され続ける」と書いてある。愛されるじゃなく、愛され続けるって、ものすごくハードルが高いことだと思ったんです。
では、どうしたら愛されるのか。マザー・テレサさんが遺した「愛されたいなら、まず愛することを」という言葉を見つけて、僕はすごく納得しました。相手にすごく喜んでもらうとか、楽しんでもらうとか、役に立つというふうに置き換えています。
働くとは働きかけることで、傍を楽にすること。自分から愛情を持って働きかけていく。そうすると、「愛され続ける」になるというのが僕の解釈です。
Q. 仕事をするうえで、妥協したくないことはありますか?
前進です。昨日よりも1ミリでも良いものにする。ちょっとでも面白くする。ちょっとでもやりやすくする。そういう進化は妥協したくないです。
以前、「人生は下りエスカレーター」という言葉を聞き、大いに納得しました。何もしなければ自然と下がっていくし、普通に歩いていると、同じ高さにとどまるだけ。上の階に行きたいなら走らないといけない。「昨日より良かった」「前回より楽しかった」と言ってもらうのは大変ですが、妥協したくないですね。
“働くとは働きかけることで、傍を楽にすること”
本領を発揮すると仕事が楽しくなる——働き方そのものを実験する
Q. 「おかしな実験室」の働き方を教えてください。
直接雇用のフルタイムが5名、パートタイムが1名、業務委託のメンバーが6名います。釧路、宮城、東京、神奈川、埼玉、愛知、福岡に住んでいて、隔週のオンライン会議で進捗を確認し、月に一度春日井市にある「おかしな実験農場」に集って汗を流しています。雇用形態も働く場所も選べる実験をしています。
ワークとライフを分けて考えるのがワークライフバランス。分けないのがライフワーク。僕は分けない方がお得だと思っていて、その実証実験をしている感覚です。「仕事はツライもので、つまらなくて当然。感情を押し殺し、自分を抑えて会社のために働くからお金をもらえる」と思っている人をたくさん見てきましたし、僕もそうでした。一方で、「主体的に働いてほしい」とか「もっと自分ごととして捉えてほしい」と言う経営者は多い。やりたくないことを無理にやらせると生産性も低いし、発展もしないけど、自分を生かして夢中になって取り組んでいる人は実に幸せそうで、すごく大きな成果を上げたりする。そういう人の多くは、「本領発揮」しています。
本領とはその人本来の持ち味や能力ですが、「何をしている時が嬉しいか?」「何をしていると時間が早く過ぎるか?」の答えも、本領の入口だと思っています。
例えばSNS担当がお酒好きなら、お酒とお菓子のペアリング提案を投稿すれば、喫食シーンや顧客層の拡大に寄与します。好きなお酒のメーカーのSNS担当者にコラボを持ち掛けて実現すれば、フォロワー数の増加や反応率の向上に寄与します。お酒を飲みながら好きなお菓子を語るイベントを実現すれば、消費者調査になるし、ロイヤリティも高まります。そんな風に自分の欲を会社とフォロワーさんの欲に同期できれば、それは立派な成果です。
やりたくない仕事を指示されてやるより、好きなことに夢中になっている時のほうが、クオリティは上がります。その人自身も喜ぶし、良いものは人の心を動かす。だから、本領を発揮できる環境をつくりたい。
パソコンとスマホと、Wi-Fiがあればどこでも仕事ができるので、どこに住んでいたっていい。本領を発揮してもらうために、働き方についても実験しているんです。
Q. リモート中心のチームだからこそ、大切にしていることはありますか?
感謝と尊敬ですね。これはリモートに限らないことですが、お互いを尊重して、感謝を言葉にすることを大切にしています。
リモートは、相手が今何をしているか全部見えるわけではありません。だから、信用がないと成立しない。その信用をつくるためにも、お互いに尊敬と感謝の気持ちを持つことが必要だと思っています。
2週間に1回100分のリモート会議「おか験談話室」では、冒頭3分間に全員で目を瞑って気持ちを整える深呼吸から始め、その後に各自1分間の心と体の状態と業務外のグッドニュースも話すチェックインを設けています。歯や喉が痛い時、家族や得意先との間で気になることがある時などは、どうしても集中しにくい。そういう状態を知らずに仕事だけを見ていたら、必要な助けもできません。
困った時には臆せず気軽にすぐ相談できる間柄になることを重視しています。一方で、仕事のクオリティには妥協しません。その人の発展や幸せを願うからこそ、「このレベルではまだ外で評価される仕事にはなっていないと思う」とか、「もっと高みを目指すなら何をしたらいいと思う?」など、お互いに切磋琢磨しています。
僕は「上司・部下」という言葉を使いません。人に上下を付けて良かった試しがないからです。自分の担当領域は、その人自身が一番強い人であるべきですから、信頼して任せます。
マネジメントという言葉は誰もが使いますが、管理職という言葉に表れているように、管理という意味で使っている人が多いと思います。僕は、その人の価値や報酬が上がっていくようにするプロデューサーであるべきと思っています。その根底にあるのが、感謝と尊敬です。
“全国に仲間をつくることが、「世の中をちょっと面白くする」ことにつながると思っています。”
畑と、サマースクールと——「分かち合って、生み出す」仲間づくり
Q. 春日井市の畑で行っている「畑と自分を育てる日」は、どのように始まったのでしょうか?
もともとは、畑のオーナーである林俊輔さんと仕事をしたかったからです。僕は彼をすごく尊敬していて、誰もが活躍できる「ユニバーサル農業」という考え方にも大いに共感しています。
ただ、春日井製菓は農業の会社ではないので、畑仕事を仕事にしづらい。そこで、当社の「グリーン豆」が50周年を迎えた2023年に、その原材料であるえんどう豆を育てる研修に仕立てたんです。
さらに、会社が「人づくり・自分づくり」を掲げていたので、午前中は畑でえんどう豆を育て、農家さんの苦労や原材料への理解を深める。午後はビジネススキルの研修をする、という月一回の社内研修として始めました。
ところが、少人数で畑仕事をするのはかなり大変で、もっと人手が欲しくなった。そこで社外の人にも声をかけて、午後の研修に参加したいなら「午前中は畑を手伝ってください」と。そうしたら、社外からいろんな人が参加してくれたんです。畑仕事を覚えたい人や、おかしな実験室に興味があった人、ストレス解消したい人など動機は様々です。
その後、午後の研修も、参加者が抱えている難題をみんなで一緒に考える形へ変わっていきました。畑に来てほしいなら、来てくれた人の役に立つことを、こちらも返していく。「愛されたいなら愛する」と同じで、まず相手の役に立つ。そうして人が集まり、ご縁がつながっていることは、とてもありがたいです。
Q. 「仲間づくり」の活動として、特に印象に残っているものを教えてください。
今なら「おかしなサマースクール in 愛知」ですね。多業種の法人や団体が参加する、1年間の学び合いコミュニティです。4回目となる今年は春日井製菓を含め47社が参画し、夏の時期に約40の学びイベントを一緒につくりました。
僕にとって「仲間」は、同じ目線で、同じ方向を向いている関係です。憧れの人を下から見上げるファンのような関係ではありません。集団と仲間の違いは、「分かち合って、生み出す」という行為の有無ではないかと思っています。
「おかしなサマースクール in 愛知」は、ネタづくり、仲間づくり、きっかけづくりの3つが重なった活動です。「おかしなサマースクール in 愛知」には、仕事で面白いことをやりたい人たちだけ来てください、と宣言しています。その大前提があることで、前向きな空気の中で分かち合って生み出すプロセスがスムーズに進み、かけがえのない仲間になっていきます。
全国に仲間をつくることが、世の中をちょっと面白くする
Q. 「世の中をちょっと面白くする」という思いは、今も変わっていませんか?
変わっていません。自分なりに、面白くしている自覚もあります。ただ、まだまだやりたいことがあります。
今は愛知だけでなく、釧路や高知など、いろいろな地域と関わりを深めています。知らなかった人、関係のなかった人たちが「仲間だ」と言えるようになると、その人たちにとっての世の中は少し面白くなるはずなんです。孤軍奮闘ではなくなるから。
全国に仲間をつくることが、「世の中をちょっと面白くする」ことにつながると思っています。各地に顔の浮かぶ仲間がいて、お互いにつながっている。仲間と一緒に、どうしたら世の中をちょっと面白くできるかな?と考えながら仕事をすると、工夫や粘りや発想の転換が起きたりして、自分たちも楽しくなるし、喜んでくれる人も多くなります。これは大きな成果だと思うんです。
Q. 10年後、「おかしな実験室」がどのような存在になっていたら嬉しいですか?
分からないです。
10年前の僕は春日井製菓に勤めていませんでしたし、今こんなことをしているなんて全然思っていませんでした。だから10年後にどこにいるのかも、「おかしな実験室」があるのかも分かりません。
でも、別に「おかしな実験室」という組織がなくてもいいと思っています。今のメンバーがそれぞれ、自分のやりたいことの中で本領を発揮して、世の中を自分なりに面白くしている状態になっていたらいい。10年後には別の会社にいる人もいるかもしれません。それでも、みんなが世の中をちょっと面白くすることをしているんだろうな、と思っています。
Q. 最後に、この記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。
一度、畑に来ませんか。
僕自身、もともと愛知にゆかりがあったわけではありません。幼少期は埼玉で育ち、今は東京に住んでいます。でも愛知の会社に勤めたことで、こんなに愛知が身近になりました。
一緒に畑で汗を流し、語り合い、ご飯を食べて、いろんな会社の悩みを解決する手立てを一緒に考えるのは、すごく楽しいですから。