ランチェスター経営春日井
代表 熊谷 文男
小さな会社には、必ず「宝」がある。
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大企業と同じことをするのではなく、「小さな会社だからできること」を見つける
ノリさん:そもそも「ランチェスター戦略」とは、どんなものなのでしょうか。
熊谷さん:もともとは戦争の戦いの法則なんです。優勢軍には優勢軍の戦い方があり、劣勢軍には劣勢軍の戦い方がある。劣勢であっても、戦い方によって勝つチャンスがあるという考え方です。
それが後に経営に応用されて、「大企業の戦い方と小さな会社の戦い方は違う」という考え方になっていきました。今では、小さな会社がどう戦っていくかを考える経営戦略として使われています。
ノリさん:では、小さな会社は具体的にどこに勝機を見つけていくのでしょうか。
熊谷さん:大きな会社には、大きな会社だからこそできる役割があります。人・物・お金・時間といった経営資源をたくさん使って、必要なものを大量に生産し、多くの人へ安く届けることができます。
一方で、手間暇がかかることや、広く一般向けではない特定の需要、特定の悩みを持った人への対応など、大きな会社では難しいこともあります。
そこに小さな会社の役割があるんです。
「自分たちだからこそ、誰に対して、どんなことで役に立てるのか」
それを見つけていくために、ランチェスター戦略という考え方が生きてきます。
“大きな会社では難しいことに、小さな会社の役割があるんです。”
「何をするか」の前に、「何をしないか」を決める
ノリさん:これまでやってきたことを整理し、削ぎ落としながら、会社の核となるものを見つけるようなイメージでしょうか。
熊谷さん:ほぼそれで合っています。
小さな会社の社長さんは、それまで自分の仕事を続けてきて、技術や仕事そのものには自信を持って独立される方が多いんです。
ただ、「その技術が誰の役に立つのか」とか、「大きな会社にはできなくて、自分たちにはできることは何なのか」というところまでは、自分ではなかなか見えません。
そうすると、独立した後にも大きな会社と同じことをやってしまう。
でも、お客様からすると「同じことなら大きな会社でいいじゃないか」となってしまいます。
だから、まず考えるのは「うちの会社がやるべきではないことは何なのか」です。
やるべきではないことを削ぎ落としていって、そのうえで「自分たちがやるべきことは何なのか」を見つけていく。
どんな小さな会社にも、「自分じゃないと、自社じゃないとできないこと」はあると私は思っています。
“どんな小さな会社にも、「自分じゃないと、自社じゃないとできないこと」はあると私は思っています。”
会社の「宝」は、本人にとっては当たり前のこと
ノリさん:ただ、自分たちだけでその強みを見つけるのは難しそうですね。
熊谷さん:自分で見つけるのが難しいんです。
私はセミナーでよく「自分の長所を言える人?」と聞くんですが、自分のことになるとなかなか分からないですよね。
会社も一緒なんです。
これまで中小零細企業のお手伝いをしてきて、私はそれぞれの会社が持っているものを「宝」と呼んでいるんですけれど、その宝は本人にとっては宝でも何でもないんです。
当たり前にやっていることだから。
「えっ、うちのそれが強みなの?」と言われることもあります。
でも、お客様からすれば「それがあなたの会社の強みだから、私はあなたの会社から買っているんですよ」ということなんです。
そこに気づくと、「あ、それで良かったんだ」と思える。それまで自分がやってきたことですから、自信にもつながっていきます。
“その宝は本人にとっては宝でも何でもないんです。当たり前にやっていることだから。”
「売上を上げたい」という社長の悩みに応えたかった
ノリさん:熊谷さん自身は、どうしてランチェスター戦略にたどり着いたのでしょうか。
熊谷さん:私は独立する前、会計事務所に勤めていました。
担当していたのは、従業員10人以下の零細企業の社長さんが中心で、財務や経理、数字の面からお手伝いをしていました。
その社長さんたちから一番よく聞いた悩みが、「どうやって売上を上げたらいいかな」ということだったんです。
でも、当時の私は数字屋ですから、そこまではお手伝いできなかったんです。
「何とか売上を上げるお手伝いができないかな」と思って、経営のセミナーに参加したり、本を読んだりするようになりました。
それを10年くらい続けた頃ですね。
2004年の夏に、春日井の鳥居松にある三洋堂書店のビジネス書コーナーで、一冊の本と出会ったんです。
『小さな会社社長のルール』という本でした。
タイトルを見た瞬間に、「これ、俺のお客さんじゃん」と思いました(笑)。
ページをめくると、「このページはあのお客さんに伝えたい」「ここはあのお客さんだ」と、担当している社長さんの顔が次々と浮かんできたんです。
すぐに本を買って、一気に読みました。
そして著者の竹田先生に連絡して、「勉強させてください」とお願いしたところから、本格的にランチェスター戦略を学ぶようになりました。
“タイトルを見た瞬間に、「これ、俺のお客さんじゃん」と思いました。”
「先生になるな。一緒に学びなさい」から始まった戦略社長塾
ノリさん:学び始めてからは、どのように実践していったのですか。
熊谷さん:本格的に勉強を始めて5年くらい経った頃、師匠から言われたんです。
「会計事務所なら担当のお客さんがいるでしょう。その人たちに、自分が先生になるのではなく、自分も一緒に学ぶつもりでランチェスター戦略を勉強しなさい」と。
そこから始めたのが、今も続けている「戦略社長塾」です。
ただ、最初は本当に大変でした(笑)。
相手は実際に会社を経営している社長さんです。一方、私は数字のことしか知らない会計事務所の人間でした。
「そんなこと、お前に言われなくても分かっている」
「ランチェスターではそう言うかもしれないけど、俺には合わない」
「お前にそんなことを言われたくない」
そんな言葉もたくさんいただきました。
当時の私は、知識を覚えたことで、どこか上から目線になっていた部分もあったと思います。
しかも私は勤め人ですから、毎月決まった給与をいただいて生活していました。
一方、経営者は明日の売上がどうなるかも分からない世界で生きている。その苦しさを理解しないまま、机の上で学んだことを伝えていたんです。
“経営者は明日の売上がどうなるかも分からない世界で生きている。”
200回の社長塾。叱られるたびに「伝え方」を変えた
ノリさん:かなり厳しい経験ですね。どうやって乗り越えていったのでしょう。
熊谷さん:「次は今日みたいに叱られないために、どう言えばいいだろう」と考えるようになりました。
「この例えは分かりにくいと言われたから、次はこういう例えにしよう」とか。
勉強会で社長さんから言われたお叱りの言葉を赤い字で書いて、それに対して「次はこうしてみよう」という改善策を青い字で書く。そんなことをずっと繰り返していました。
戦略社長塾を200回くらいやった頃、ようやく社長さんから「ああ、よく分かった」と言ってもらえるようになってきたんです。
心が折れなかったわけではないですよ。折れました(笑)。
ただ、当時の勤め先の所長が「これは会計事務所としても差別化になるから、どんどんやりなさい」と後押ししてくれていました。
だから、やめられなかったというのもあります(笑)。
今となれば、それも良かったと思っています。
“心が折れなかったわけではないですよ。折れました(笑)。”
「どうして言うことを聞かないのか」から、「なぜそう思うのか」へ
ノリさん:経営者の方と向き合う難しさもかなりあったのでしょうか。
熊谷さん:最初は「なんでこの人は言うことを聞かないんだろう」と思っていました。
「言ったことをやればいいのに」と。
でも、ある人から「それは違うよ」と言われたんです。
「あなたが自分の考えやランチェスター戦略を、社長さんに押し付けているだけでしょう」と。
当時はお客様と契約しても長続きしないことがありました。それを私は、「言ったことをやらないからだ」「宿題をやってこないからだ」と、全部相手のせいにしていたんです。
でも、それは違っていて、自分が言ったことが伝わっていないなら、自分の伝え方に問題があるかもしれない。
社長さんが何かに反発しているなら、「なぜそこに反対するのか」をこちらが深く考えられていないのかもしれない。
そうやって見方を変えてから、「困った社長さんだ」と感じることは、かなり減りました。
“自分が言ったことが伝わっていないなら、自分の伝え方に問題があるかもしれない。”
戦略という「やり方」と、人としての「あり方」
ノリさん:熊谷さんは独立する前から戦略をかなり勉強されていたんですよね。
熊谷さん:独立する5年前に勤め先へ「5年後に独立したいです」と伝えて、そこから準備をしていました。
ですから、独立するときには戦略という武器を持っていたんです。
ところが、実際に独立するとお客様との関係が長続きしない。
「戦略はあるのに、なぜだろう」と考えていく中で気づいたのが、人としての「あり方」ができていなかったということでした。
そのきっかけになったのが、倫理の学びです。
倫理法人会という経営者の学びの場を紹介されて入会したんですが、正直、最初は「社長さんがたくさんいるなら集客になる」という気持ちが大きかったんです。
「ガッツリ儲けるぞ」と。
ところが、そこで学んでいくと、「そういう人には誰もついてこない」と教えられる。
人としてのあり方、経営者としてのあり方を学ぶ中で、「やり方だけでは駄目なんだ」と気づきました。
ランチェスターという「やり方」と、倫理という「あり方」。
両方が大事なんだと思っています。
いくら社長にテクニックや戦略があっても、従業員が「この人についていきたい」と思わなかったら続きません。
協力業者さんが「この会社の仕事なら真っ先にやろう」と思ってくれるか。銀行が「この社長なら応援したい」と感じてくれるか。
そういうところには、やっぱり社長自身の「あり方」が関わってくるのだと思います。
“ランチェスターという「やり方」と、倫理という「あり方」。両方が大事なんだと思っています。”
2045年までに、1万人の「戦略社長」を
ノリさん:これから「ランチェスター経営春日井」を通じて、地域の企業や経営者にどんな価値を届けていきたいですか。
熊谷さん:私が主にお手伝いしているのは、従業員10人以下の会社です。
これまで小さな会社を支援してきた中で、私自身の使命もはっきりしてきました。
2045年までに、従業員10人以下の小さな会社の社長さん1万人を「戦略社長」にすることです。
2045年には私は75歳なんですけど。
そこまでランチェスター戦略を伝え続けたいと思っています。
小さな会社の社長さんたちが、自分たちの強みを理解して、自分たちに合った戦い方ができるようになる。
それが地域のためにも、日本のためにもなると思っています。
“2045年までに、従業員10人以下の小さな会社の社長さん1万人を「戦略社長」にすることです。”
「自分たちの宝」を、まず周りの人に聞いてみる
ノリさん:最後に、経営に悩んでいる方へメッセージをお願いします。
熊谷さん:伝えたいことは二つあります。
一つ目は、どんな会社にも必ず「自社でなければできない宝」があるということです。
これまで長く会社のお手伝いをしてきましたが、それを持っていない会社はないと思っています。
ただ、ご本人にはなかなか見つけられない。
自分の長所が自分では分かりにくいのと同じです。
だから、周りの人に聞いてほしいんです。
まず、お金を払って商品やサービスを買ってくださっているお客様に、「なぜうちから買ってくださっているんですか」と聞く。
お客様には、あなたの会社にお金を出す理由があります。
従業員さんにも聞いてみる。「社長は気づいていないけれど、うちの会社のここは良いよね」ということを知っているかもしれません。
協力業者さんにも理由があります。なぜほかの会社ではなく、あなたの会社の仕事を引き受けてくれているのか。
聞くのには少し勇気が要ります。
でも、周りの人に聞けば、自社の宝は必ず見つかると思っています。
そしてもう一つ、大切にしている言葉があります。
「不易流行」です。
「不易」は、時代が変わっても変わらない原理原則。「流行」は、時代とともに変わっていくものです。
経営にはどちらも必要です。
例えば、今ならSNSを活用することは当たり前になっています。
でも、「SNSを使えばお客様が集まる」と考えて発信しても、思うような結果にならないことがある。
その前提となる「不易」がないからです。
自分たちは何の商品で戦うのか。どの地域で戦うのか。どんなお客様の役に立つのか。
限られた経営資源の中で、どこならナンバーワン、オンリーワンを目指せるのか。
そうした経営の原理原則を持ったうえで、時代に合わせた新しい手段を使っていく。
流行だけを追って、「次はこれ」「今度はこれ」と変え続けていては、永続する経営にはなかなかつながりません。
経営の原理原則を学ぶことは、社長さんにとって一生の課題だと思っています。
そして、自分の会社にしかない「宝」を見つける。
そこから、小さな会社だからこそできる経営が始まるのだと思います。
“周りの人に聞けば、自社の宝は必ず見つかると思っています。”