名古屋高校サッカー部
監督 山田 武久
「成長至上主義」で、一人ひとりの可能性を伸ばす——名古屋高校サッカー部が目指す、勝利と個の成長
英語とサッカー、どちらも「世界で通用する言語」だった
Q. サッカー指導を志したきっかけは何だったのでしょうか。
私は昔から英語が得意で、英語とサッカーを小学校からずっと続けてきました。
英語とサッカーは、どちらも世界で通用する、ある意味での言語だと思っています。その二つを教えたいと考えた時に、教員という仕事がいいのではないかと思い、この道に進みました。
Q. 監督・指導者としての道を選んだ決定的な瞬間はありますか。
現在は私立の名古屋高校で教員をしていますが、以前は名古屋市立高校で公務員の教員をしていました。
その際、名古屋市立名東高校で永曽哲也監督に出会いました。永曽監督とサッカーについていろいろな話をする中で、自分も強いチームをつくりたいと思うようになり、今に至っています。
Q. これまでの人生で最も大きな転機と影響は何でしたか。
先ほどの話にもつながりますが、30歳頃に公務員を辞めて私立高校へ移った決断です。
公立高校と私立高校では、チームづくりの環境が大きく異なります。そして、私立高校には転勤がないため、長い期間をかけて、じっくりチームづくりやチーム運営に取り組むことができます。その点は、現在の指導にも大きく影響していると思います。
Q. 今の指導スタイルを形づくった経験はありますか。
名古屋高校は男子校で、現在は男子生徒を指導しています。ただ、私自身の指導のベースには、名東高校で学んだことに加え、その前に勤務していた名古屋市立中央高校での経験があります。
中央高校は夜間定時制の高校で、15歳、16歳の生徒から80歳の方まで、幅広い年代の方が通っており、一度学校に来られなくなった生徒や、学校を辞めた生徒たちが、もう一度集うような学校でもありました。
そこで教員として身につけたのは、上から引っ張っていくというよりも、下から支えていくという考え方です。そうした経験があるため、現在もどちらかと言えば、ボトムアップという形で指導に携わっています。
“「勝利至上主義」ではなく、「成長至上主義」という言葉を掲げています。”
「勝利至上主義」ではなく、「成長至上主義」
Q. チームづくりで最も大切にしている考え方を教えてください。
世の中では「勝利至上主義」という言葉が、少しネガティブに捉えられることがあります。ただ、スポーツをやっている以上、勝ちにこだわることは大事です。
一方で私は、それに加えて、個人個人が成長していくことを最も大切にしています。だからこそ、「勝利至上主義」ではなく、「成長至上主義」という言葉を掲げています。
昨日よりも今日、今日よりも明日、強くなり、上手くなること、一人ひとりが少しずつ前に進んでいくことを主眼に置いて、日々指導しています。
Q. 選手と接する上で意識していることは何ですか。
選手は一人ひとり、顔も個性も違います。だからこそ、個人に合ったアプローチを心がけています。
強く言っても受け止められる、メンタルが強い子には、こちらも強く伝えます。一方で、同じ伝え方では難しい子もいます。そうした選手には、その子に合ったやり方を選択し、伝えていく必要があります。
なので、全員を同じように扱うのではなく、それぞれの個性を見ながら関わることを大切にしています。
Q. 勝敗や結果に関わらず、監督として大切にし続けている価値観はありますか。
圧倒的なインプット量です。
サッカーの知識だけでなく、社会に出た時に通用することや、社会で必要とされる情報を、高校生の吸収力が高い時期に、できるだけ多くの知識や経験に触れさせたいと考えています。
海外遠征にも行っていますが、例えば東南アジアのタイへ行き、経済成長を実際に目の当たりにすることで、将来自分がビジネスをすることになった時に、現地の人たちとの関わり方や、ビジネスパートナーとの向き合い方を学ぶことができます。
バンコクの街並みを見れば、日本と比べて東南アジアで今何が盛んになっているのか、どのように都市が発展しているのかも感じ取ることができます。そうした経験も含めて、とにかく情報量を与えていくことを大切にしています。
“昨日よりも今日、今日よりも明日、強くなり、上手くなること、一人ひとりが少しずつ前に進んでいくことを主眼に置いて、日々指導しています。”
勝ちにこだわり、絶対的な個を育てる
Q. 名古屋高校サッカー部を一言で表すと、どのようなチームですか。
最後まで自分の持っている力を出し切り、すべてを出し切ってサッカーをするチームであってほしいと思っています。
そうしたプレーが、グラウンドの中で自然に出てくるチームになればいいと考えています。
Q. チームとして目指しているサッカーの形を教えてください。
勝ちにこだわることです。
パワーや声、チーム全体の雰囲気でも相手を圧倒し、できるだけ勝率を上げていく。そうしたサッカーを心がけています。
もちろん、一つひとつのプレーが感動を生むこともあります。ただ、最後は勝ったチームが賞賛されますし、勝てなければ評価や記憶から残りにくい現実もあります。だからこそ、チーム全体で勝ちにこだわったサッカーを行っています。
Q. 選手を育てるうえで大切にしている方針は何ですか。
絶対的な個の育成です。一人ひとりにフォーカスすることを大切にしています。
身長や体重、筋肉のつき方も、選手によってそれぞれ異なります。そのため、私たちがこだわっているのは、できるだけ数値化し、見える化することです。
フィジカル測定を行ったり、血液検査をしたりしながら、その子の特性を明らかにします。そのうえで、何が足りないのかを栄養面や休養、生活面も含めて考え、個人、個人にアプローチしていきます。
なので、一律の方法で選手を伸ばすのではなく、それぞれの個性に合った方法で、個の育成につなげていきたいと考えています。
“一律の方法で選手を伸ばすのではなく、それぞれの個性に合った方法で、個の育成につなげていきたいと考えています。”
成長を実感するのは、卒業後に再会した時
Q. 選手の成長を実感するのは、どのような瞬間ですか。
選手は3年間で育つというよりも、選手の成長は、在学中よりも卒業後に再会した時に非常に成長を感じることが多いです。
高校卒業後、卒業生として再び会った時に、以前とは違う表情や考え方を見せてくれることがあります。そうした姿を見ると、教員という仕事は本当に息の長い仕事だと感じます。
Q. 進学校としてサッカー部を運営する難しさと強みを教えてください。
難しさは、時間にかなり制限があることです。
全員が16時まで授業を受け、活動できるのは16時30分から19時30分までの間です。その中で、現在は160人の部員がいます。だからこそ、1日90分のトレーニングを基本に、90分を2コマ設けたり、朝練の時間をうまく活用したりしながら、できるだけ運動量を落とさない工夫をしています。
一方で、選手たちは考える力を持っていますので、与えられた環境の中で、自分にとって今何が必要なのかを、彼ら自身がよく考えてくれます。
限られた90分の中で集中し、パフォーマンスを上げていく力は、選手たちにとって大きな強みになっていると感じています。
“選手の成長は、在学中よりも卒業後に再会した時に非常に成長を感じることが多いです。”
地域のハブになる、愛されるチームづくり
Q. OBや地域との関わりの中で、チームとして大切にしていることはありますか。
地域に愛されるチームづくりです。
チームとして地域に愛されるチームづくりということは、地域のハブになっていくためには非常に大切だと考えています。そのため、地域でサッカー教室を開催したり、学校近辺に住む高齢者の方々に声をかけ、健康教室などを実施しています。
先日もサッカー教室を開催し、現役のJリーガーが3人おり、その3人が来たことで、200人の小学生がグラウンドに集まってくれました。みんなでサッカーを楽しむ機会を持てたことは、非常に良かったと思っています。
“学力でも日本一を目指し、サッカーでも日本一を目指す。その両方を本気で目指すチームにしていきたいです。”
学力でも日本一、サッカーでも日本一を目指す
Q. サッカー部の選手たちに、どのような進路や人生を歩んでほしいですか。
自分らしい生き方をしてほしいと思っています。
型にはまった生き方だけでは、今の世の中を生きていくのは難しいと感じています。だからこそ、サッカーを通じて、自分がどのような個性を持っているのかを学んでほしいです。
自分の強み、いわゆるストロングポイントを理解したうえで社会に出ていけば、それを活かして生きていけるのではないかと考えています。
なので、人とは違う、自分らしい生き方を、高校時代や大学時代に考えてほしいです。
Q. 今後、名古屋高校サッカー部をどのようなチームにしていきたいですか。
名古屋高校は、文武両道という点では、どちらも日本一を目指している学校です。
サッカーでは、高校サッカー選手権大会でベスト8まで進むことができました。今後は、ベスト4に進出し、国立競技場の舞台に立ち、さらに決勝まで進み、真の日本一を目指したいと思っています。
また、昨年は、サッカー部からJリーガーが1人誕生しました。そして、その同級生には、京都大学に合格したサッカー部員もいます。サッカーと学業の両方で高い目標を持つ選手がいることは、名古屋高校らしさの一つだと思います。
学力でも日本一を目指し、サッカーでも日本一を目指す。その両方を本気で目指すチームにしていきたいです。
Q. これからの高校サッカーにおいて、最も大切だと思うことは何ですか。
今はAI時代を迎え、仕事も効率化され、できるだけ負担やストレスを減らす方向に世の中が進んでいると感じます。
その中で私自身が一番大事だと思っているのは、ストレスに対する抵抗力や、レジリエンス、反骨精神のようなものです。
そうした非認知能力を育てるには、スポーツが非常に適していると考えています。高校スポーツや高校サッカーを含め、部活動は縮小していく流れもありますが、AI時代だからこそ、精神的に強い子どもたちをどう育てていくかには、部活動やスポーツを通じてではないとなかなか難しいと思います。
だからこそ、部活動やスポーツをさらに盛り上げ、そうした力を育てていくことが必要だと思っています。