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岡村 典幸
「面白い方を選ぶ」から始まる——農業を入口に、暮らしをほんの少し豊かにする
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「面白そう」から始まった、農業との出会い
ーまず、この事業を始めたきっかけを教えてください。
事業というより、そもそも農業を始めるきっかけからになります。僕の同級生が27、28歳ぐらいの時に、地元で八百屋をやると言い始めたんです。その話を聞いた時に、単純に「面白そうだな」と思いました。それで、「半分お金を出すから、俺もやらせてよ」というところから、二人で始めることになりました。ただ、当時は野菜のことがまったく分からなくて、そこで、契約していた農家さんのところへ「ちょっと俺、修行に行ってくるわ」と言って行きました。しばらく続けているうちに、そちらの方が楽しくなってしまい、農業をやりたいと思うようになり、その修行先で10年ほど、農業を勉強して、そこから独立する形で、今につながっています。
ー起業を決意した瞬間は、どのような時でしたか。
10年ほどお世話になった場所を辞めてから、「農業はやりたいけど、やる場所がないな」という感じで、少しフラフラしていた時期がありました。そんな時に、たまたま知り合いから「土地があるからやってくれないか」という話をいただいたんです。それなら、せっかくだからやろうかなと思い、起業というよりも、そこからやり始めたという感覚に近いです。
“お金が稼げなくても、面白い方を選ぶ。それが、僕の一番大きな判断の軸です。”
一番苦しかった時期と、その先
ー独立してから、一番苦しかった出来事は何でしたか。
自分でやり始めた場所が、「来年からは使えません」となった時は、やっぱりどうしようかなと悩んでいました。それから、農業を辞めて次の場所へ行くまでの間に、2〜4ヶ月ぐらい空いていた時期がありました。その間も働かなければいけなかったので、少しの間、鳶の仕事をしていたんです。ただ、僕は高所恐怖症でして、絶対にやりたくない仕事でした。毎日嫌で、あの時は辛かったです。でも、今振り返ると良かったとも思います。40歳手前で一番辛い経験ができて良かったなと。もちろん、鳶の仕事をしている方たちは本当にすごいです。安全帯を付けて、ものすごいスキルで作業されているので、そこは心からすごいと思います。ただ、自分は高いところを克服できませんでしたので、だから今、こうして地べたで働いているのは最高ですね。
ーその苦しかった時期は、どのように乗り越えたのでしょうか。
コロナが理由です。仕事が全部止まるという状況になって、それで「辞めます」と言って、辞めました。もちろん大変な時期ではありましたが、自分にとっては農業へ戻るきっかけにもなりました。
“農業を使って、社会を少しだけ、ほんの少しだけ豊かにしたい。うちは、そういう会社です。”
影響と原体験——おじいちゃんの畑
ーこれまで影響を受けた人物はいますか。
正直、僕はまだ経営ができているとは思っていないのですが、影響を受けた人は、今まで会ってきた中にたくさんいます。うちのリーダーにも当然影響を受けています。ただ、一般的に会社経営をされている方々とは、僕は少しタイプが違う気がしています。人物というより、好きなアーティストや、色んな出来事から影響を受けていることが多い気がします。
ー周りの人や、これまでの経験から学んだことはありますか。
自分が面白いと思うことは、ちゃんと貫いた方がいいということを学んだかもしれません。若い頃は、身近な人も含めて、いろいろな人に迷惑をかけてきたと思います。ただ、年齢を重ねていろいろなものが見えてくると、周りとのバランスや整合性を取れるようになってきまして、そういう中でも、自分の中にブレないものを持っておくことは大事だと、周りの人たちのおかげで強く思うようになりました。
ー子どもの頃は、どのような性格でしたか。
何も考えていない目立ちたがり屋でうるさくて面白くないやつだったと思います。
ー今の仕事につながる原体験はありますか。
おじいちゃんが小さな畑をやっていました。遊びに行くと、そこでずっと遊んでいたんです。虫を捕まえたりしていました。ただ、あの頃から畑が好きだったかと言われると、それは分かりません。ですが、面白いもので、しばらく前に行った時に、おじさんも畑をやっていたんです。「やっぱりみんなやるんだな」と思いました。原体験があるとすれば、おじいちゃんの畑かもしれません。そんな気がします。
“この仕事の魅力は、圧倒的に「思い通りにならない」こと。だからこそ、やめられないんです。”
「面白いか、面白くないか」——大切にする価値観
ー仕事をするうえで、最も大切にしている考え方は何ですか。
面白いか、面白くないかです。お金が稼げなくても、面白い方を選ぶ。それが大きいです。
ー大切にしている価値観についても教えてください。
普段の生活を、ほんのちょっとでいいから豊かにしてくれるものを大事にしています。僕と関わったことで、少しでも生活に潤いが出たなとか、小さなことに気づけるようになったなとか、僕自身もそうですが、関わる人がそういう風になってくれたらいいなと思っています。そして、そこに面白さがあることも大事です。
ー会社を一言で表すと、どのような会社でしょうか。
農業を使って、社会を少しだけ、ほんの少しだけ豊かにしたい。うちの会社は、そういう会社だと思っています。
ー曲げない信念はありますか。
そんなに大それたものはないと思います。その時の流れの中で、いいなと思うものには乗っかっていったり、受け入れたりすると思います。ただ、判断がつかない最後は、やっぱり面白いか面白くないかです。その面白いというのは、やっている最中だけではありません。やった結果として得られるものが面白いかどうかも考えます。たとえ大きな対価をいただけるとしても、面白くなければ「これはどうかな」と思うこともあります。もちろん、びっくりするような対価だったら、「面白くはないけれど、これだけいただけるならいいかな」と思うこともあるかもしれません。でも最終的には、自分がやっている最中だけではなく、出る答えが面白いかどうかを問います。結果があまり面白くなさそうだなと思ったら、きっと、お断りすることもあると思います。
“普段の生活を、ほんのちょっとでいいから豊かにしてくれるもの。それを大事にしています。”
農業を入口に——事業と強み
ー現在の商品やサービスについて教えてください。
今は、さつまいもを作っています。加工して、干し芋を作っています。これが基本的なうちの加工品です。干し芋は僕だけで作っているわけではなく、知り合った方にお願いして作ってもらっている部分もあります。もう一つは貸し農園です。ただ、一般の方に貸す形ではなく、企業さん向けに貸している場所です。
ー他にはない強みは、どのようなところにありますか。
農業の入口として、「こういうことをしたい」ということに対しての間口は広いと思います。それが強みかなと思います。農業といっても、ただ作物を育てるだけではなく、企業さんが関わることで何ができるかを一緒に考えられる。そこに可能性があると思っています。
ー農業に関する技術やノウハウについては、どのように考えていますか。
10年くらい修行しているので、最低限の技術、基本は持っていると思います。ただ、今は一人でやっているので、他の人とは違う形になっている部分もあるかもしれません。農業には正解がないので、育てば勝ちというところがあります。その分、臨機応変に対応できるところは、自分の良さかもしれません。
ーこの仕事の魅力は何ですか。
この仕事の魅力は、圧倒的に「思い通りにならない」ことです。ここが、やめられないところなんです。なぜなら多分、思い通りになったらやめてしまうと思うからです。プラモデルのように、完成したら終わりというわけではありません。農業は、最初からどうなるか分からないところから始まります。だからこそ、そのための下準備もすごく大事です。実って、作物ができたとしても、それが売れるかどうかは分かりません。今度は売るための下準備が別で出てきますので。値段も含めて、とにかく思い通りになりません。でも、それが楽しいんです。
“農業には正解がない。育てば勝ち。だからこそ、臨機応変に対応できることが自分の良さかもしれません。”
お客様と、企業との関わり
ー社員と接するうえで大切にしたいことはありますか。
今は社員はいませんし、今のところ、無理に人を増やすつもりはありません。できるだけ自分でやりたいという気持ちがあります。ただ、もし人を雇ったとしたら、同じようにしてほしいです。できるだけ自分がやりたいようにやってほしい。常に面白い方を選んでほしいです。それが僕と反対の意見でも、全然やってほしいと思います。ちゃんと理由があって、「これが面白いんです」と言ってくれるなら、やってほしい。そういう感じでいたいです。
ー現在、主なお客様はどのような方々ですか。
始めたのが去年の11月からなので、完全にオープンしているわけではありません。今は、僕が声をかけられる範囲の企業さんにお願いして、サンプルとしてやっていただいている段階です。1件はITの会社さんで、もう1件は車屋さんです。ジャンルは問いません。これからきちんと募集する形になったら、どんなジャンルの方でも良いと思っています。ただ、同業者だけは少し嫌ですね。それ以外であれば、基本的にはどんな企業さんでも良いです。
ーお客様からの反応や、現在感じている課題はありますか。
今は、お互いに意見を出し合っているところです。会社さんにも都合がありますので、なかなかタイミングが合わないことはあります。向こうがやりたいことと、こちらの都合が合わないこともあります。そこは、これからどうしていくか考えなければいけないところです。あとは天候もあります。自然相手なので、すべてを保障しきれるものではありません。そういうところを、もう少し詰めていきたいと思っています。そこは、お互いに感じている部分だと思います。
ー得意な仕事や案件はありますか。
会社のことは、ほとんど僕がやっています。こうやってメディアに出たり、人前で話したりすることは、人と比べたら得意な方かもしれません。ためになる話はほとんどないですけど、もちろん、農業は得意です。
つながりたい企業と、これからの挑戦
ーどのような企業とつながっていきたいですか。
せっかく春日井でやらせていただいているので、春日井の事業者さんとも一緒にやれたら嬉しいです。あとは、面白がってくれる人たちとやれたらいいなと思います。農業に対してでも、僕自身に対してでも、どちらでも構いません。賛同してほしいという気持ちが強いわけではなく、単純に喜んでくれたり、興味を持ってくれたりする人だったら嬉しいです。僕自身、選り好みするつもりはありません。あとは、モノを大事にしてくれる企業さんだったら一番嬉しいです。雑なのは嫌です。丁寧な企業さんとやりたいですね。僕自身が丁寧かと言われると分かりませんが、雑ではない方がいいです。
ー企業との連携で、今後やってみたいことはありますか。
貸し出す側としては、どんな企業さんでも構いません。ただ、雑なのは嫌だなと思います。農業の面で言えば、僕の畑で起きている小さな困りごとは、他の農家さんも同じように困っていることかもしれないので、そういう困りごとを小さく解決できるような開発ができたら面白いと思います。異業種の企業さんでも、機械を作る人でも、何でもいいと思っているので、「こういうのをやったらどうですか」という提案も面白そうです。そういうものを農業に使ってみたいですし、僕らも農業の現場で使えるかもしれない技術があれば、お役に立てるようにできたらいいなと思います。いろんなことを開発ができたら面白いですよね。
ー特に今、実現したいことはありますか。
今やりたいのは、ディルを使った商品づくりです。畑で、僕が大好きなディルというハーブを育てているんですが、自分で植えておいてですが、植えすぎて消費できないんです。以前は、それをパスタに練り込んで売っていましたが、その会社さんとは今はお付き合いがなくなってしまい、作れなくなってしまいました。なので、食に関わる新しいものを作りたいという企業さんとは、ぜひ一緒にやってみたいです。ディルというハーブを使ったパスタを、もう一度作りたいんです。もし「うちだったら麺やパスタにディルを練り込めるよ」という企業さんがいたら、ぜひお待ちしています。
ー企業に提供できる強みは何ですか。
野菜です。収穫物ですね。
これからのビジョン
ー今後のビジョンを教えてください。
1年後は、シンプルにこの区画が全部埋まっている状態にしたいです。3年後は、そのノウハウを誰かに貸し出すような形ができたらと思っています。僕はこのままここをやっていくつもりです。またその時には、今欲しいと思っているものや、ディルパスタのような取り組みが中心になっていたらいいなと思います。そして、僕主催や春日井市さんと一緒に、小さなマルシェのようなこともできたらいいですね。そこに企業さんたちも一緒に関われる形ができたら面白いと思います。5年後には、社員が5人ぐらいになっていたらいいですね。もしくは、フランチャイズが3つぐらいできているといいなと思っています。
ー最後に、読者へ伝えたいことをお願いします。
僕が大切にしているのは、やっぱり「面白いかどうか」です。農業は思い通りになりません。準備をしても、天候に左右されることもあります。作物ができても、売れるかどうかはまた別の話です。それでも、その思い通りにならないところが面白いんです。農業を使って、社会をほんの少しだけ豊かにしたい。関わってくれた人の生活に、少しだけ潤いが生まれたり、小さな気づきがあったりすれば、それが自分にとっては大事なことです。春日井でやっているからこそ、春日井の事業者さんともつながっていきたいですし、農業を面白がってくれる人、丁寧にモノを大事にしてくれる企業さんと一緒に何かができたら嬉しいです。大きなことを言いたいわけではありません。農業という入口を使って、企業さんや地域の人たちと、少しずつ面白いことを形にしていけたらと思っています。