株式会社尾北
代表取締役社長 河村 和幸
思いを込めたその一本が、みんなの喜びと幸せを作り出し、未来をつなぐ

結婚を機に、未経験の世界へ飛び込んだ
ーこの事業を始めたきっかけは何だったのでしょうか。
きっかけは、結婚です。妻の父がこの仕事をしていた関係で、この業界に携わることになりました。
それまでは、まったく違う仕事をしていました。システムエンジニアとしてプログラムを組んだり、その後はネットワークエンジニアとして働いたりしていたんです。ものづくりの業界とは縁がなかったので、自分でも想定していなかった方向へ人生が進み始めた感覚がありました。それに当時一緒に仕事をしていた先輩の存在が、自分の中では大きかったと思います。その方はとても前向きで、大手IT企業へ出向しながらも、自社の受注もどんどん取っていくような、非常に意欲的な方でした。しばらく一緒に仕事をする中で、私自身も大きな刺激を受けました。そうした時期に、結婚を機に「この仕事をやらないか」という話をいただいたんです。まったく経験のない業界でしたが、断るという選択は、自分の中にはありませんでした。知らない世界に飛び込んでチャレンジするには、まだ自分も若かったですし、これから意欲的に取り組めると感じたんです。
ー未経験でこの業界に飛び込むことは、本当に大きなチャレンジだったと思います。不安や迷いはありませんでしたか。
それ以上に、会長の言葉が強く印象に残っています。結婚を機にこの仕事をやるかどうか、という話になったときです。極端な話、私がやらなければ事業を続けるかどうかも判断しなければならないような状況でした。そんな中で、私が「やります」と決めたとき、会長は心よく受け入れてくださいました。それだけでも大きなことだったのですが、当時は、私が入ることで会社の規模が倍近くになるような仕事を受注するかどうか、という大きな判断も同時にあったんです。そんな中、まったく知らない私に賭けてくださった。信じて託してくださった。そのことは、今でも非常に大きな印象として残っています。
“知らない世界に飛び込んでチャレンジするには、まだ自分も若かったですし、これから意欲的に取り組めると感じたんです。”
前職の経験を武器に、がむしゃらに進んだ日々
ーそんな大きな決断の後、実際に業務を進める中で感じたことはありましたか。
業務を進める中で感じたのは、初めて携わる業界であっても、前職での経験が決して無駄ではなかったということです。私はもともとシステムエンジニアとしてプログラムを組んだり、ネットワークエンジニアとして働いたりしていました。そんな経験がこの業界では別の意味で役に立っていると思っています。例えばこの業界にはそうした分野にあまり強くない人が多かったんです。だからこそ、自分の力を発揮できる場面が多くありました。それは、自分にとっても会社にとっても、よかったことだと感じています。まったく違う業界から飛び込んだからこそ見えることもありましたし、前職での経験が無駄になったとは思っていません。むしろ、違う経験をしてきたからこそ、この業界の中で自分なりの役割を見つけることができたのだと思います。
ー一方で、一番苦しかったことや、大変だったことはありましたか。
正直に言うと、「苦しかった」という強い記憶はあまりありません。もちろん、経験のない業界に飛び込んで事業をしていくわけですから、大変なことはたくさんありました。ただ、苦しいというよりは、がむしゃらにやってきたという感覚のほうが強いですね。とにかく前へ進もうという思いでやってきました。だから、「一番苦しかった出来事」として何か一つを挙げるのは、少し答えにくいです。
ー「がむしゃらにやってきた」というのは、具体的にはどのような日々だったのでしょうか。
本当にやったことのない仕事だったので、とにかくいろいろな人に聞きました。お客様にも聞きましたし、何とか真似でもいいから自分の力でやろうと、一生懸命取り組みました。休みもなく頑張った記憶があります。知らないからこそ、人に聞くしかない。やってみるしかない。そうやって少しずつ覚えていったのだと思います。
“まったく違う業界から飛び込んだからこそ見えることもありましたし、前職での経験が無駄になったとは思っていません。”
「運をつかむ準備」を——影響を受けた人物と原点
ーそうした前向きな姿勢や経営者としての考え方には、影響を受けた方の存在もあったのでしょうか。
そうですね。一人は、さきほどもお話しした前職で一緒に仕事をしていた先輩です。先輩からは、サラリーマンという感覚だけではない、経営者的な発想を学びました。当時、私は大手のIT会社に出向していたのですが、その先輩も出向中にもかかわらず、自社でできる仕事の受注をどんどん進めていました。そういう方に出会ったことは、それまであまりありませんでした。会社員として働きながらも、自分たちの会社をどう伸ばしていくかを考えて行動している。その姿に触れたことが、自分にとっての第一歩になったと思っています。
もう一人は、当社の会長です。先ほどもお話ししたように、私がこの仕事に飛び込むと決めたとき、会長も会社として大きな判断をしてくださいました。後から会長に、「そんな無謀なチャレンジを、なぜやれたんですか」と聞いたことがあります。そのとき会長は、いろいろ考えた上でだと思いますが、「何とかなる」と一言おっしゃったんです。その言葉が、すごく印象に残っています。ただ、その「何とかなる」というのは、単なる楽観ではありません。会長はよく、「運がいいのではなく、運をつかむ準備をしておくことが大事だ」と話していました。チャンスが来たときに、それをつかみに行く準備をしていたからこそ、あの判断ができたのだと思います。私自身もそれ以来、いつ何時チャンスが来てもつかみ取れるように、意識するようになりました。
ー子どものころは、どのような性格でしたか。
基本的には真面目な性格でした。あまり目立つことはしたくない、着実にやるタイプだったと思います。どちらかというと気が弱くて、怒られるのが嫌だから真面目に取り組むようなところがありました。勉強は比較的できたので、学級委員などに推薦されることもありましたが、当時は気が強くなかったので、指名されると泣いてしまうこともありました。そんな学生生活だったのを覚えています。一方で、図工や技術のような、いろいろなものづくりに関わることはとても得意でした。小さいころから、何かを作ることには自然と興味があったのだと思います。そうした経験が、今、自分がものづくりの世界に飛び込めた理由の一つになっていると感じています。
“運がいいのではなく、運をつかむ準備をしておくことが大事だ。”
一本一本に思いを込めて——大切にしている理念
ーそうしたご自身の歩みや、ものづくりへの想いを踏まえて、御社が最も大切にしている理念を教えてください。
いくつか掲げているものはありますが、その中でもミッション、つまり我々の使命として大切にしている言葉があります。それは、「思いを込めたその一本が、みんなの喜びと幸せを作り出し、未来をつなぐ会社になる」というものです。我々が作るボルトは、年間で約7億本あります。その一本一本が、最終的にはお客様の手元に届き、使われていきます。ボルトというと、一般的には小さな部品と思われるかもしれません。しかし、その一本が人の人生を大きく動かすこともあります。人命に関わることもありますし、誰かの喜びにつながることもあります。だからこそ、一本一本を大切にし、思いを込めて世の中に送り出したい。常にそう考えて事業をしています。数が多いからこそ、ただ作業として流してしまうのではなく、その一本の先にあるものを考えることが大切だと思っています。私たちの仕事は、目立つ仕事ではないかもしれません。それでも、その一本一本が社会の中で使われ、誰かの暮らしや安全につながっている。その意識を大切にしています。
ーそんな理念のもと、社員と接するうえで、大切にしていることは何ですか。
会社が成長する中で、最初は自分一人でも結構やれると思っていました。ですが、規模が大きくなるにつれて、自分の手だけではできないことが増えてきました。その中で、社員の力というのは本当に大きいと感じています。社員は、私が持っていない力をたくさん持っていますし、私より優れた点を持っている人もたくさんいます。だからこそ、社員一人ひとりの長所をきちんと見られるような形で接したいと心がけています。会社は、一人の力だけで成り立つものではありません。自分ができることには限界がありますし、会社が大きくなればなるほど、社員の力が必要になります。それぞれが持っている良さを見て、その力を発揮できるようにしていくことが、会社にとっても大切だと思っています。
“思いを込めたその一本が、みんなの喜びと幸せを作り出し、未来をつなぐ会社になる。”
ボルト製造一筋——主力商品と尾北の強み
ー主力商品やサービスについて教えてください。
主力商品はボルト全般です。主なお客様は自動車業界で、自動車を組み立てるうえで必要なボルトを扱っています。多く扱っているのは、溶接用のボルトや六角ボルト、フランジボルトなどです。サイズも幅広く、多岐にわたる品揃えが特徴です。
ー他社にない御社の強みはどこにありますか。
ボルト加工に関して、基本は少量多品種で対応しています。数十本といった小ロットから、多いものでは月間700万本規模まで対応できます。サイズも、M5の小さなものからM14ほどの大きなもの、長いものまで幅広く対応できる体制を整えています。
ー技術やノウハウには、どのようなものがありますか。
弊社は今年で創業75年になります。ネジを作る工程にはさまざまなものがありますが、頭の工程から下の工程まで、比較的幅広く対応できる技術力を持っています。具体的には、頭部を作る圧造、熱処理、表面処理、ネジの溝を作る転造、トリム工程など、多岐にわたる工程に対応しています。長く事業を続けてきた中で、こうした工程に関する技術やノウハウを積み重ねてきました。単に一つの工程だけを担うのではなく、幅広い工程に対応できることが、今の会社の力につながっていると感じています。
ーお客様からは、どのような点を評価されていますか。
よく言われるのは、対応力とスピードです。中小企業ならではのフットワークの軽さを活かして、お客様の要望に応えていることが評価につながっているのだと思います。お客様からの要望に対して、できる限り柔軟に対応していく。その姿勢は、会社として大切にしている部分です。規模が大きい会社には大きい会社の強みがありますが、私たちには私たちなりの動き方があります。その一つが、対応力やスピードだと思っています。
ー特に得意な仕事や案件はどのようなものですか。
今、競争力があるという意味では、ウェルドボルト、つまり溶接用のボルトです。頭部の整形から熱処理、転造まで含めて、一貫生産体制が取れることが大きいですね。それに加えて、弊社は「何でもやる」というスタンスが強い会社です。そうした柔軟性も強みになっていると思います。もちろん、何でも簡単にできるという意味ではありません。ただ、お客様から相談をいただいたときに、できる方法を考える。対応できる可能性を探る。そうした姿勢が、結果として会社の強みになっているのだと思います。
“お客様から相談をいただいたときに、できる方法を考える。対応できる可能性を探る。そうした姿勢が、結果として会社の強みになっているのだと思います。”
未来へつなぐものづくり——これからのビジョン
ー今後は、どのような企業と協力していきたいですか。
弊社の可能性を広げてくれる会社とお付き合いしていきたいです。また、弊社だけではできない部分を補っていただける会社とも、ぜひ協力したいと考えています。今、大きく二つあります。一つは、人材不足の時代の中で、人材面で支援していただける会社です。もう一つは、自動化やAIといった分野で高い技術力を持つ会社です。これからの時代を考えると、そうした企業とお付き合いしていきたいと思っています。人材不足という課題は、今後も避けて通れないものだと感じています。その中で会社を成長させていくためには、人の力を大切にしながら、技術の力も取り入れていく必要があります。
ーこれから目指している会社の姿を教えてください。
2、3年ほど前に、管理職を集めて「どんな会社にしていきたいか」をディスカッションしたことがありました。そのときに掲げたのが、「チームを一つに、自分の仕事と会社に誇りが持てるよう、共に成長しよう」というビジョンです。これは近い将来、実現したい会社の在り方として定義したものです。今は、それに向かって進めているところです。直近では、人材不足の中でどうやって会社を成長させていくかが大きなテーマです。そのため、今は「人が根付く会社」「人の力をもっと引き出せる会社」を目指しています。社員一人ひとりが、自分の仕事に誇りを持てること。そして、会社に対しても誇りを持てること。そうした状態をつくっていきたいと考えています。
ー10年後を見据えたとき、どのような会社にしていきたいですか。
10年後を考えると、人材の課題はもちろん必要不可欠ですが、それに加えて海外との競争も避けられません。中小企業であっても、競争相手は各国のローカルメーカーです。その中で、どう競争力を出していくかを常に考えて成長していかなければ、10年後に生き残れる会社にはなれません。そのためには、筋肉質な会社にしていく必要があると思っています。
自動化、IoT、AIといったものを積極的に取り入れながら、成長していきたいと考えています。これまで75年にわたって培ってきた技術やノウハウがあります。その一方で、時代は大きく変わっています。人材不足、海外との競争、技術の進化。そうした変化に向き合いながら、会社としてどう成長していくかを考え続けなければなりません。
大切なのは、これまでのものづくりを守りながら、必要な変化を取り入れていくことだと思っています。
一本一本に思いを込めるという考え方は、これからも変わりません。その上で、社員が誇りを持ち、会社として競争力を高め、未来につながるものづくりを続けていきたいです。
“大切なのは、これまでのものづくりを守りながら、必要な変化を取り入れていくことだと思っています。”