PisAQUA
代表 藤井 恵理子
限界を迎える前に、話せる場所をつくりたい——自分も人も大切にできる社会へ

「相談すること自体が迷惑」だった——限界を迎える前に、話せる場所を
Q. 今の事業につながる原体験や、起業・事業承継・代表就任を決めたきっかけを教えてください。
30代の頃、職場や身近な人のメンタル不調や自死を経験する中で、「相談してくれればよかった」という周囲の言葉に違和感を覚えました。
私自身、苦しい時ほど「相談すること自体が迷惑」と感じてしまう立場を経験していたからです。
その後、自分の過去を話したことで心が少し軽くなったという人との出会いから、私自身がつらいと感じていた過去の経験も、誰かの役に立てるのかもしれないと実感しました。
もっと多くの人にメンタルヘルスの大切さを伝えたいと、発信力を身につけるためモデル活動も始めました。
やがて会社から活動停止を求められたことを機に、22年間勤めた会社を退職し、2016年に独立。「限界を迎える前に話せる場所をつくりたい」という思いが、現在の活動の原点です。
“苦しい時ほど「相談すること自体が迷惑」と感じてしまう立場を、私自身が経験していました。”
コロナ禍で立ち返った「何のためにやるのか」
Q. 経営人生で最も苦しかった時期や、大きな転機となった出来事を教えてください。その経験から何を学びましたか?
経営人生の中で大きな転機となったのは、コロナ禍です。
リラクゼーションサロンの売上が落ち込み、次の柱として準備していたスクール事業も予定通りに進まず、先の見えない時期が続きました。
一方で、人との接点が減る中で心身の不調を抱える人が増え、「今こそ伝えることがある」と改めて実感。以前から目指していた講演の道へ、本格的に踏み出しました。
この経験から、計画通りに進まない時こそ、形に固執せず「何のためにやるのか」という目的に立ち返ることの大切さを学びました。
事業の形は変わっても、届けたい価値まで変える必要はない。今も大切にしている考えです。
“事業の形は変わっても、届けたい価値まで変える必要はない。”
22年勤めた会社を辞める——判断の基準は「目的に近づいているか」
Q. これまでに行った大きな意思決定と、その際に大切にした判断基準を教えてください。
これまでの一番大きな意思決定は、22年間勤めた会社を退職したことです。
女性が退職を意識することも多いライフイベントがひと段落し、「さて、これからは定年を見据えて頑張るか」と考えるような40歳のタイミングで、大手企業での安定した収入や肩書きを手放すことは、とても怖い決断でした。
しかし、「私が今、本当にやりたいことは何か」を考えた時、メンタルヘルスの大切さをもっと多くの人へ伝えたいという思いを優先しました。
その後も、サロン、スクール、講演と事業の形を変えてきましたが、判断の基準は同じです。
目の前の手段に固執せず、「本来の目的に近づいているか」「その選択は誰かの役に立つか」を問い直すこと。迷った時ほど目的に立ち返ることを、今も大切にしています。
“目の前の手段に固執せず、「本来の目的に近づいているか」「その選択は誰かの役に立つか」を問い直すこと。”
大切な人の笑顔を守るには、まず自分を大切にすること
Q. 売上や成長よりも優先して守っているもの、経営において大切にしている考え方を教えてください。
私が売上や成長よりも優先して守りたいのは、人が自分自身を犠牲にしすぎないことです。
これまで、心身の不調が本人だけでなく、家庭や職場、人間関係へと連鎖していく現実を、自分自身の経験も含めて見てきました。
だからこそ「大切な人の笑顔を守るには、まず自分を大切にすること」を何より大事にしています。
誰かの我慢や無理の上に成り立つ成長ではなく、一人ひとりが自分らしく健やかに働き、生きられること。その土台を守ることが、結果として持続的な成長につながると考えています。
“大切な人の笑顔を守るには、まず自分を大切にすること。”
キャリア・心・身体を切り離さない——譲れない価値
Q. 「この会社だからこそ」と思う強みや、他社と比べても絶対に譲れない価値は何ですか?
私の強みは、キャリア・心・身体を切り離さず、その人を「社会の中で生きる一人の大切な人」として捉えることです。
私は22年間の会社員経験に加え、9年間のリラクゼーションサロン運営を通じて、経営者や管理職、働く人たちの身体に触れながら、仕事や家庭、人間関係などさまざまな話を聴いてきました。
資格や理論だけでは見えない「言葉になる前の違和感」にも丁寧に寄り添うこと。そして、答えを与えるのではなく、その人自身が気づき、選び、前へ進む力を支えること。
それが、絶対に譲りたくない価値です。
“誰かに相談し、話を聴いてもらうことは恥ずかしいことではなく、勇気ある一歩だと思います。”
自分を信じられなかった時に、信じ続けてくれた人
Q. これまでの経営人生で一番感謝している人と、その理由を教えてください。
一番感謝しているのは、人生の大きな転機をそばで支えてくれた「人生の伴走者」です。
心身ともに苦しく、自分の人生に希望を持てなかった時期にも、否定せず話を聴き、生活面でも支え続けてくれました。
その存在があったからこそ、私は初めて「もう少し生きてみたい」と思えるようになり、自分の経験を誰かの役に立てたいと前を向くことができました。
今の仕事や活動も、決して一人で築いてきたものではありません。自分を信じられなかった時に信じ続けてくれたことに、今も心から感謝しています。
辞める直前ではなく、日ごろから安心して話せる場を
Q. 人手不足など「人」に関する課題について、現在感じていることや、取り組んでいることがあれば教えてください。
現在、私自身は一人で事業を行っていますが、これまで多くの経営者や管理職、働く人たちから、それぞれの立場での話を聴く中で、「人手不足」は採用できないことだけではなく、人が定着しない、本音を言えない、成長実感を持てないことにも大きく関係していると感じています。
だからこそ、辞める直前ではなく、日ごろから安心して話せる場が必要だと考えています。
今後は、第三者として社員の声を聴き、本人のキャリア形成を支えながら、経営者との橋渡しも行うことで、「ここで働き続けたい」と思える組織づくりを支援していきたいです。
10年後、「自分も人も大切にする」が当たり前の社会に
Q. 10年後、会社や社会・地域がどのようになっていたら「成功」だと思いますか?そのために必要なことは何ですか?
10年後、メンタルヘルスという言葉をあえて大きく掲げなくても、一人ひとりが人生やキャリアを考える中で、自分も周りの人も大切にすることが自然にできる社会になっていたら嬉しいです。
心身の健康は、健康だけを切り離して考えるものではなく、働くこと、人間関係、生活、そして経済的に健全な社会生活を送るための土台だと思っています。
特にコロナ禍により世界中の人が共通して健康意識の重要性を実感することで、ウェルビーイングの思想への関心が高まりつつある今こそ、健康経営や社内研修、相談窓口の定着などにより社会で働く多くの人たちに正しい理解を広げ、次の世代へと繋いでいくことで、その感覚が特別なものではなく当たり前になり、その過程に私自身の経験や活動が少しでも役立っていたなら、なお嬉しく思います。
Q. 社員・お客様・これから出会う人たち、そして未来の読者へ伝えたいメッセージをお願いします。
人生や仕事に迷った時、どうか「自分を大切にすること」を後回しにしないでほしいと思います。
頑張ることも、誰かを支えることも素敵ですが、自分がすり減ってしまっては長く続きません。
立ち止まること、誰かに話すこと、進む道を変えることも、人生を大切にする選択です。
私にとってキャリアとは、仕事だけでなく「どう生きたいか」を考え続けること。
誰かに相談し、話を聴いてもらうことは恥ずかしいことではなく、勇気ある一歩だと思います。ただ、相手によっては傷つくこともあります。
だからこそ、安心して話せる相手や場所を選べる環境が整い、自分も周りの人も大切にしながら、それぞれが自分らしい人生を選べる社会になってほしいと願っています。