女優系イラストレーター
前田 奈子
「可愛い」は、自分で作れる——感情を、目に見える形に。
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イラストレーターと俳優——二つの「表現」で生きる
Q. 現在は、どのような活動をされているのでしょうか。
主にイラストレーターとして、企業様のオリジナルキャラクター、飲食店さんの看板のイラスト、本の表紙や挿絵など、さまざまなキャラクターイラストを手掛けています。
それと並行して芸能活動もしていて、短編映画やショートドラマにも出演させていただいています。
Q. イラストレーターを目指した原点は、どこにあるのでしょう。
小さい頃から、本当に絵を描くことが大好きでした。幼稚園の頃からずっと描いていましたね。
ただ、私にとっては「絵を描くことが好き」というだけではなかったと思います。昔は人と話すことがあまり得意ではなくて、自分の気持ちを言葉で伝えることが難しかったんです。
だから、人と話すことよりも、絵を描くことが私の中ではコミュニケーションに近かった。すごく身近にあるもので、「生きていく方法」と言ってもいいくらいの存在でした。
当時は、自分がイラストレーターになるなんて想像していませんでしたし、そもそもそういう仕事があることも知りませんでした。振り返ってみると、本当に「まさか」の連続です。
Q. 一方、俳優の活動を始めたきっかけは?
大学時代に、最初はモデル活動で声をかけていただいたのがきっかけです。
その頃には昔よりポジティブになっていて、「声をかけていただいたということは、もしかしたら自分に向いているのかもしれない」と思ったんです。本当に小さなきっかけでしたが、そこから飛び込んでみました。
Instagramなどに写真を投稿しているうちに、最初は相互無償で撮影していただくことが多かったのですが、次第に有償で声をかけていただくことも増えていきました。その後、事務所からも声をかけていただき、そこで演技のレッスンを受けたんです。
やってみたら「あ、これは楽しい」と思って。そこから、演技のお仕事もできたら嬉しいなと思うようになりました。
“人と話すことよりも、絵を描くことが私の中ではコミュニケーションに近かった。すごく身近にあるもので、「生きていく方法」と言ってもいいくらいの存在でした。”
言葉にできなかった子ども時代——絵が「生きていく方法」だった
Q. 子どもの頃は、人と話すことが苦手だったそうですね。
本当に喋れなかったです。
自分の気持ちや感情を、どういう言葉で伝えたらいいのかが分からなくて。「正しく伝えるにはどうすればいいんだろう」と考えすぎてしまっていたのかもしれません。
うまく言葉にできなくて泣いてしまうこともありましたし、子どもの頃から生きづらさのようなものは感じていました。
小学生から高校生くらいまでは友達をつくることもあまり得意ではなく、教室の隅で絵を描いているような子だったと思います。
Q. そこから大きく変わるきっかけになったのが、美術大学だったのでしょうか。
そうですね。
大学に入ると、本当にいろいろな人がいました。髪の毛が緑色の人がいたり、自分自身の表現をすごく大切にしている人がたくさんいて。
そこで初めて「あ、自分のままでいいんだ」と思えたんです。
しかも、自分だけが自由に表現するのではなくて、相手の表現も尊重する人たちが周りにいました。同期や先生、先輩、後輩など、そこで出会ったいろいろな人から本当に良い影響を受けました。
私自身も、少しずつ他の人の表現を尊重できるようになりましたし、それまでの悲しい気持ちやネガティブな感情だけではなくて、「自分って、こんな気持ちにもなるんだ」と感じることが増えていったんです。
世界が広がったような感覚は、今でも覚えています。
“そこで初めて「あ、自分のままでいいんだ」と思えたんです。”
コンプレックスだらけだったからこそ、「可愛い」を作る
Q. 過去のコンプレックスも、現在の表現につながっていますか。
すごくつながっていると思います。
今は「可愛い」を作るイラストレーターとして、二次元でも三次元でも「可愛い」を表現していますが、昔の私はそこから真反対の場所にいるような感覚でした。
男の子みたいな髪型をしていたり、卓球をやっていたのでスポーツ少女という感じだったり。顔にもコンプレックスがあって、眉毛や鼻のことを言われたこともありました。
中学生の頃には女の子のグループになじめなかったこともあり、コミュニケーションもうまくできなかったので、本当にコンプレックスだらけでした。
でも、そうやって悲しい気持ちになることを自分が知っているからこそ、同じように悲しむ子がいたら嫌だなと思うんです。なので、そういう経験をした私でも「可愛い」は作れるし、「可愛いものは自分で作れるんだ」という嬉しい気持ちを感じてもらえる人が、少しでも増えたらいいなと思っています。
Q. イラストと俳優。一見まったく違う仕事ですが、ご自身の中ではつながっていますか。
大きなカテゴリーで考えると、私の中では同じです。どちらも「表現」なんです。
もちろん、平面にゼロから絵を描いていくことと、自分自身の身体を使って演じることはまったく違います。
でも、私はもともと話すことが苦手だった一方で、絵と演技はどちらも「楽しい」と思えました。楽しいことって、不思議と難しいとは思わないんですよね。
それに、イラストレーターとして見る世界と、俳優として見る世界は違います。
イラストだけをやっていたら見えなかった視点や、俳優だけをやっていたら気づかなかった景色がある。その両方を経験しているからこそ、一つの考え方に固まらず、いろいろな視点から物事を見られるようになったことは大きいと思います。
“そういう経験をした私でも「可愛い」は作れるし、「可愛いものは自分で作れるんだ」という嬉しい気持ちを感じてもらえる人が、少しでも増えたらいいなと思っています。”
目に見えない想いを、目に見える形に——企業キャラクター制作
Q. 企業のキャラクターを制作するとき、特に大切にしていることはありますか。
企業様のオリジナルキャラクターを一から作る場合、その会社には、目には見えないけれど熱い想いがあると思うんです。
「どんな人に届けたいのか」「どういう想いがあって、この会社や事業をしているのか」ということをお聞きして、それを自分の頭の中でイメージして、目に見える形にしていきます。
だから、自分の中でどれだけイメージを膨らませられるかは、この仕事ですごく大切な部分です。
普段からいろいろなものを見るようにもしています。作品だけではなく、今そこにあるものの形や、目に見えない構造、それらがどんな人によって、どのように作られたのか。できるだけ深いところまで見たり知ったりするようにしています。
人についても同じです。
「この人は、どういう気持ちでこの言葉を選んだんだろう」「どんな感情で話しているんだろう」と想像することが多いですね。
そうやって自分の中に入った情報が、イメージになって、最終的に形になっていくのだと思います。
Q. 「女優系イラストレーター」という肩書きも印象的です。
これは自分で勝手に作った肩書きなんです。
実は肩書きも活動に合わせて変えてきました。以前は、メイド服を着て絵を描いていたので「メイドイラストレーター」とその次に「アイドルイラストレーター」と名乗っていた時期もありました。
結構、周りにあまりいない名前をつけたくなるんですよね。「ただのイラストレーターじゃないぞ」という部分を少し表現したくて。
ただ、自分だけが気に入る名前というより、「どう思ってもらえるか」「覚えてもらいやすいか」ということも考えています。
今の「女優系イラストレーター」は、イラストレーターと女優の両方で活動していることを分かりやすくつなげた肩書きです。
もしかすると、今後また変わるかもしれません。自分の活動と、皆さんがどう受け取ってくださるかによって変わっていくものなので、それも楽しみにしていただけたらと思っています。
“大きなカテゴリーで考えると、私の中では同じです。どちらも「表現」なんです。”
11年間、諦め続けなかった——汗と涙の先にある「今」
Q. イラストレーターとして11年間活動してきて、一番変わったことは何でしょう。
11年というと、短くて長いような、不思議な感覚です。
活動を始めた頃はまだ美術大学の学生でした。SNSを通して初めて仕事をいただいた時、「本当に絵が仕事になるんだ!」とすごく嬉しかったのを今でも覚えています。
「これがお仕事になるなら、私は生きていけるかもしれない」と思いました。
もちろん不安もありました。「これをどうやって続けていくんだろう」と思いましたし、最初の案件はものすごく時間もかかりました。
それでも、不安より「楽しい」が勝っていたんです。「もっとやりたい」「もっと頑張りたい」という気持ちがずっとありました。
大学を卒業するときには「就職をどうしようかな」と考えたこともありましたが、やっぱりイラストレーターとして活動していきたいと思い、個人で活動を続けてきました。
楽しいけれど苦しい。苦しいけれど楽しい。その繰り返しですね。
私は自分を天才だとは思っていません。だから、努力でここまでやってきたという感覚があります。
振り返れば、本当に汗と涙の連続です。でも、そうやって一つずつ乗り越えてきたからこそ、今がすごく幸せだと思えます。
とはいえ、まだまだ途中です。
Q. 苦しい時期に「やめたい」と思ったことはなかったのでしょうか。
「どうしよう」は何度もありました。「これからどうやって生きていこう」と思ったこともあります。
でも、「やめたい」はなかったですね。
本当に、諦め続けなかった。それだけなのかもしれません。
ただ、自分一人の力で乗り越えてきたわけではありません。いろいろな方の支えがあって今の私がいるので、本当に「生かされている」としか言いようがないです。
私はあまり人に頼ることが得意ではなくて、弱音も吐けず、自分で解決したいと思ってしまうタイプでした。
それでも、活動当初からずっと応援してくださっている方や、身近な友人、個人事業主の仲間、先輩など、「どうしよう」とポロッとこぼした時に力になってくださる方が本当にたくさんいました。
助けられてばかりの人生だったと思います。
だからこそ、今度は同じように悩んでいる人がいたら、私も力になりたい。「どうやって乗り越えよう」と悩んでいる人がいたら、自分がしてもらったように力になりたいと思っています。
“本当に、諦め続けなかった。それだけなのかもしれません。”
SNSは、想いを目に見える形にして届けられる場所
Q. SNSでの発信をとても大切にされていますね。
本当に大切です。もともと仕事をいただくきっかけもSNSだったので、なくてはならないものだと思っています。
今はいろいろなSNSがありますが、全部を同じように続けるのは自分には難しいので、Instagramを中心にしています。
Instagramは、言葉だけではなく写真や画像、動画など、目で見て伝えることができるので、自分の強みを見せやすいと感じています。
今はイラストや漫画、モデル・芸能活動の写真、ショート動画などを投稿していて、「イラストレーターであること」と「女優であること」の両方が自分なんだと、ページを見た時に伝わるようにしています。
一つひとつの投稿も、実はかなり考えて作っています。
ショート動画では「イラストレーターあるある」という、クリエイターの方に共感してもらえるような内容を発信しています。11年間活動してきた中で自分が経験したことや、同業の方から聞いたことなども取り入れています。
何より、見てくださった方に楽しんでもらいたいんです。
笑顔になる人が増えたらいいなと思いながら、「自分がどんな価値を届けられるだろう」ということは常に意識しています。
Q. 今の発信スタイルにたどり着くまでには、かなり試行錯誤されたそうですね。
葛藤だらけでした。
漫画ではなくイラストを載せてみたり、文章を考えてみたり、絵のメイキング動画を作ったり。飼っている猫とイラストを組み合わせた動画を作ったこともあります。
「メイドイラストレーター」をしていた時期には、メイド服でオムライスを作って、ケチャップで本気のお絵描きをする動画も作りました。
「これ、面白いんじゃないかな」と思ってやってみるんですけど、なかなか自分が納得する結果にならないんです。
「絵なのか?文章なのか?何がダメなんだ?」って、本当にずっと考えていました。
そうやって試行錯誤を続ける中で、今はイラストレーターと女優という自分の二つの経験を生かして、「イラストレーターあるある」を演技で表現する形がすごく自分に合っていると感じています。
「あ、これをやればよかったんだ!」と思いました。
たくさんの人に届けるためにはどうすればいいのか。そのことを、自分の生き方や、自分がやりたいこと、自分が届けられるものと一緒に考え続けて、今の形にたどり着きました。
Q. 発信を続けていて、一番嬉しい瞬間は?
いっぱいあります。
特に嬉しいのは、「奈子さんみたいになりたいと思います」とメッセージをいただく時です。
もちろん「イラストがすごく好きです」と言っていただけるのも本当に嬉しいですし、自分に直接気持ちを届けてくださること自体がすごく嬉しい。
仕事のご依頼をSNSを通していただくことも少なくありません。
私が作った投稿が、自分からは見えないところで誰かに影響を与えている。その事実が本当に嬉しいんです。
SNSがなければ、ここまでたくさんの人とはつながれなかったと思いますし、ここまでいろいろな方と仕事をすることもなかったかもしれません。
もともと直接会話をして自分の気持ちを伝えることが得意ではなかった私にとって、SNSは自分の想いを目に見える形にして届けられる場所でもあります。
“もともと直接会話をして自分の気持ちを伝えることが得意ではなかった私にとって、SNSは自分の想いを目に見える形にして届けられる場所でもあります。”
大切にしているのは「感情」——屋号「tearLo」に込めた意味
Q. 活動をするうえで、一番大切にしている考え方は何ですか。
「この言葉を大切にしています」というものは、実はなかなか思いつかなくて。私にとって言葉は、少し神聖なもののように感じているところがあるんです。
ただ、考え方として大切にしているのは「感情」だと思います。
人には、楽しい、嬉しい、悲しい、怒る、幸せなど、本当にいろいろな感情があります。
私が絵を描くようになったのも、人とうまく話せないけれど絵を描くことは好きだった、という自分の感情が始まりでした。
だから、自分の感情だけではなくて、相手がどんな気持ちなのか、なぜその言葉を選んだのかということを想像するのが好きなんです。
屋号の「tearLo(ティアラ)」も、「涙」を意味するTEARと、LOVE=愛をイメージして作った造語です。
私にとって涙は、昔からすごく身近な表現でした。うまく言えなくて泣いてしまったり、怒っていても泣いてしまったり。
でも、涙って悲しい時だけではないんですよね。
嬉し涙もあるし、幸せな時にも涙が出る。いろいろな涙があることに気づいてから、自分の絵も少しずつ変わっていきました。
イラストを作る時も、「こう表現したら、この人に喜んでもらえるかな」と考えますし、演技でも、見る方や監督さんがどう感じるだろうと想像します。
やっぱり私は、人の感情をすごく大切にしているんだと思います。
“何より、「やりたい」と思った自分自身の気持ちは、大事にしてほしいし、もし私にできることがあるなら、私も力になりたいと思っています。”
春日井が育ててくれた感情と、これから届けたいもの
Q. 春日井で育ったことは、今の前田さんにどのような影響を与えていますか。
ものすごく大きいです。
子どもの頃の悲しかったことやネガティブな経験も含めて、いろいろな経験を春日井でしてきました。
でも、それは悪い意味ではありません。その経験があったからこそ、今こうして強く生きていける自分がいると思っています。
春日井には本当にいろいろな人がいて、ご近所付き合いもあって、たくさんの方と出会いながら、いろいろな感情を経験させてもらいました。
悲しいことも、嬉しいことも、楽しいことも、いろいろな感情を芽生えさせてくれた街です。
昔は人と話すことができなかった私が、今こうしていろいろな人と話せるようになったのも春日井での経験があったからだと思うので、本当に感謝しています。
だから、春日井に対して自分に何ができるのかは、常に考えています。
Q. 前田さんが感じる「春日井らしさ」は?
人が温かいところだと思います。
春日井を歩いていて、工事現場の近くを通った時に、作業をされている方から「こんにちは」と声をかけていただくことがあったり。そういう何気ない場面で、「温かいな」と感じます。
程よく自然もあって、ガヤガヤしすぎていなくて、やっぱり私は「住みやすい」ところが好きです。
住みやすいって、人生の中ですごく大事なことだと思うんです。
毎日そこで暮らして、外に出て、人と関わっていく。そう考えると、暮らしそのものが素敵だと感じられる街って、すごくいいなと思います。
Q. これから、イラストや演技、SNSを通じて実現したいことはありますか。
やりたいことはたくさんありますが、今すごく大きいのは、絵を描くことが好きな人たちに対して、自分にできることを探していきたいという気持ちです。
今度、中学校へ職業講話にも行く予定がありますし、小学生などを対象にお絵描き教室もしています。
就労継続支援B型事業所にも関わらせていただいていて、そこでも「こういうふうに描きたいけれど描けない」「イラストレーターとして仕事をするにはどうしたらいいんだろう」と悩んでいる方がたくさんいらっしゃいます。
SNSにも、若い方から大人の方まで、さまざまな方からコメントをいただきます。
そういう人たちに対して、自分に何ができるのかを、これからも探し続けていきたいです。
AIも入ってきて、共存していく時代になっていると思います。
仕事にするところまでいかなかったとしても、「絵を描くのが好き」という気持ちは失わないでほしい。
だからこそ、私自身が楽しみながら、面白く、絵を描くことの魅力を発信し続けられたらと思っています。
Q. 最後に、これから何かに挑戦しようとしている人へメッセージをお願いします。
挑戦したいことがある人には、その気持ちを大切にしてほしいです。
最初は「絶対に諦めないでほしい」と言おうと思ったんですけど、「諦めちゃダメ」と言ってしまうと、少し強要するみたいになってしまうかなって考えてしまって。
でも、「どうしたらいいんだろう」と悩むこと自体は、私は悪いことではないと思います。
私自身、ずっと悩み続けてきましたし、今も悩んでいます。
好きなことにゴールはないと思っています。少なくとも、私にとって絵を描くことにはゴールがありません。
自分が幸せな気持ちになれるからやっている。好きだからやっている。そういう気持ちも、すごく大切にしてほしいです。
何より、「やりたい」と思った自分自身の気持ちは、大事にしてほしいし、もし私にできることがあるなら、私も力になりたいと思っています。