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愛知県飲食業

鰻処まえの

前野 祐一郎

懐かしさを、うなぎとともに。——人生の一ページに残る店を目指して

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職人への憧れと、事業承継の決意

ーこの事業を始めたきっかけを教えてください。

きっかけは、保育園の頃にまでさかのぼります。漠然とですが、働いている職人さんを見て「かっこいいな」と思っていました。その頃から、「自分も職人になろうかな」と思っていたのが始まりです。なので、子どもの頃に感じた職人への憧れが、今につながっているのだと思います。そういう職人の世界に、昔から自然と惹かれていたと思います。

ー事業承継を決意した瞬間は、どのような時でしたか。

父が一度、けがをしたことがありました。その時に、漠然と不安を感じたんです。「もう自分の代になっていくのかな」と思いました。父が休まなければいけない時に、自分が社長の役割を担う場面も出てきて、「やっていかないといけないな」と考えるようになりました。もう一つ大きかったのは、商工会議所青年部で経営者の先輩方と話をする機会が増えたことです。先輩方から、「お前もそういうことを考えていかないといけないぞ」と言われることもありました。そして、そういう話を聞く中で、自分自身も少しずつ経営者として考えるようになっていったと思います。最初から明確に「承継する」と決めたというよりも、父のことや周囲の言葉、自分が担う仕事の変化を通じて、だんだんと気持ちが変わっていったという感覚です。やるならやるで、やりがいも生まれてくるだろうなと思い、少しずつですが、やっていこうという気持ちになっていきました。

ただおいしいだけではなく、食べた時に何かを思い出す。そんな味こそ、飲食において大切だと思っています。

うなぎがなくなるかもしれない——大きな転機

ーこれまでの人生で、最も大きな転機だと感じた出来事は何ですか。

一番心に残っているのは、うなぎが絶滅するかもしれないという話が出た時です。当店はうなぎ料理専門店として、親の代から続いてきました。自分自身もその流れの中で、これからもうなぎでやっていこうと思っていました。だからこそ、そんな中で「うなぎがなくなるかもしれない」という話を聞いた時は、本当にどうしようかと思いました。うなぎがなかったら、和食のお店にするのか、炭火を使っているので、かしわや鶏を扱う店にするのかなど、いろいろなことを考えました。これまで、うなぎがあることを当たり前のように思っていた部分があったと思います。でも、その当たり前がなくなるかもしれないとなった時に、自分たちがやっている仕事の土台そのものが揺らぐ感覚がありました。ですが、その後、何年かしてうなぎがまた獲れ始め、一昨年は大豊漁と言われるほどになりました。今年も豊漁と聞いていますので、今はひとまず落ち着いています。ただ、あの時に感じた焦りや不安は、今でも強く覚えています。あの出来事は、自分にとって大きな転機だったと思います。

ーその経験は、現在の経営にどのような影響を与えていますか。

やはり、うなぎがあることは当たり前ではないんだと、改めて感じました。うなぎがなくなるかもしれないという話が出た時に、一本一本を大事に売ろうという気持ちが、以前よりさらに強くなりました。商売として考えても、一本のうなぎをより大切に扱うこと、一つひとつの仕事にきちんと向き合うことを、改めて考えるようになりました。例えば温泉も、普段は当たり前のように湧いています。でも、もし枯渇したら営業できなくなるわけです。なので、そう考えると、日々当たり前のようにあるものは、決して当たり前ではないんだと思います。うなぎも同じです。仕入れられること、焼けること、お客様に提供できること。それらすべてが続いているからこそ、お店を開くことができます。そうした当たり前のありがたさを感じられたことは、今の仕事への向き合い方にもつながっています。

うなぎがあることは、当たり前ではない。だからこそ、一本一本を大事に売ろうという気持ちが強くなりました。

コロナ禍を、うなぎ弁当とともに乗り越えて

ーこれまでで一番苦しかった出来事を教えてください。

やはり、コロナ禍です。他の会社さんも同じように大変だったと思いますが、飲食店にとっては本当に厳しい時期でした。飲食店は、お客様に来ていただき、料理を提供し、喜んで帰っていただくことが大前提だと思います。それが、コロナ禍ではできなくなりました。「外食は控えるべき」というような空気になり、接待を伴う飲食店なども含めて、飲食店全体が厳しい目で見られるような状況がありました。そして、店内もパーティションがあり、皆さんがマスクをしていて、飲食を楽しめる雰囲気とは言いにくかったと思います。お客様に料理を出して、会話をして、食事を楽しんでいただく。そういう飲食店として当たり前にあった時間が、急になくなってしまった感覚でした。当然、売上も下がっていきます。そういう状況の中で、どうやって店を続けていくのかを考えなければいけませんでした。

ーその状況を、どのように乗り越えたのでしょうか。

当店には、うなぎのお弁当があり、それに救われたことです。店内での飲食が難しい状況でも、お弁当であれば持ち帰っていただくことができます。そこで、改めてうなぎのお弁当をしっかり宣伝し、より多くの方に知っていただけるようにしていきました。おかげさまで、売上がゼロになるような状況にはならず、お弁当を利用していただくことで、なんとか店を続けていくことができました。飲食店としては苦しい時期でしたが、お弁当という形でうなぎを届けられたことは、大きかったと思います。店内で食べていただく形だけではなく、持ち帰りという形でもお客様に届けられることが、あの時は支えになりました。

機械やAIが焼いたうなぎよりも、人が焼いたうなぎの方が、これから先もしばらくはおいしいと思っています。

「懐かしさ」を、うなぎとともに

ー会社として最も大切にしていることは何ですか。

一番大切にしているのは、「懐かしさ」です。当店には、親子三代で来てくださるお客様もたくさんいます。来ていただいた時に、漠然とでも「懐かしいな」と感じてもらえる店でありたいと思っています。世の中には、おいしいものがたくさんありますが、自分の中では、「懐かしい」と感じる味は数少ないものだと思っています。例えば、お袋の味とか、あるいは、死ぬまでに食べたいと思うような味です。そういうものは、自分にとってとても尊いものだと感じています。ただおいしいだけではなく、食べた時に何かを思い出したり、家族との時間を感じたり、その頃の記憶や気持ちがよみがえってくるような味。そういうものが、飲食においてとても大切なのではないかと思っています。だからこそ、うなぎとともに、懐かしさを感じられる時間をお客様に届けていきたいです。そして、お客様の人生の一ページになるような店にしていきたいと思っています。うなぎを食べに来る時間が、ただの食事ではなく、家族との記憶や、特別な日の思い出として残っていく。そういう店でありたいです。

創業七十二年の間、注ぎ足してきた秘伝のタレ。それが、当店のアイデンティティです。

社員と、お客様への想い

ー社員の皆さんと接する上で、大切にしていることを教えてください。

自分自身が、なるべく明るく接することは大切にしています。自分が暗い雰囲気でいたら、働いている人たちも「この会社は大丈夫なのかな」と思うかもしれません。だからこそ、暗い気持ちにさせないことは意識しています。自分自身、うなぎを扱うことが好きですし、うなぎで商売をすることも好きです。なので、そういう気持ちが働いている人たちにも伝わったらいいなと思っています。もう一つ大切にしているのは、お客様がどんな気持ちで来てくださっているかを考えることです。うなぎを食べに来られる方は、たぶん普段の日常の食事というよりも、少し特別な日に来てくださっていることが多いと思います。年に何回も食べに来るものではなく、年に一回、二回という方も多いかもしれません。だからこそ、お客様がどんな気持ちでこの店に来てくださっているのかを大切にしてほしいと思っています。家族のお祝いかもしれませんし、久しぶりの食事かもしれません。何かの節目で来てくださっているのかもしれません。そういう一回一回の食事の時間を大切に扱うことが、店として大事なことだと思っています。

うなぎを食べに来る時間が、家族との記憶や、特別な日の思い出として残っていく。そういう店でありたいです。

人の手でつくるからこそ——うなぎ専門店の仕事

ーこの仕事の一番の魅力は何だと感じていますか。

うなぎを扱う仕事は、手作業の仕事です。これからAIが発展していくことは明らかだと思いますが、人の手でやる作業がなくなるわけではないと思っています。料理は、その中でも人の手が担う価値が大きい仕事の一つだと思います。特にうなぎは、より専門性が高く、手で扱う部分が大きい仕事です。機械やAIが作ったうなぎの蒲焼きよりも、人が焼いたうなぎの蒲焼きの方が、これから先もしばらくはおいしいと思っています。もちろん技術は進んでいくと思いますが、うなぎをさばくこと、焼くこと、火を見ながら仕上げることは、簡単に置き換えられる仕事ではないと思います。人の手でつくるからこそ出せるものがある。そこは、この仕事の強みでもあり、魅力でもあると思います。

ー御社の事業を一言で表すと、どのようなお店ですか。

うなぎ料理専門店です。なので、うなぎ料理以外のことは、あまりやらないようにしています。専門店として、うなぎに向き合うことを大切にしています。いろいろなものを扱うのではなく、うなぎ料理専門店として続けていく。その姿勢は、これからも変わらないと思います。

創業七十二年、注ぎ足してきた秘伝のタレ

ー他社にはない強みを教えてください。

一つは、うなぎ料理の仕事に二十年ほど携わってきた職人が、何人も在籍していることです。長くうなぎを扱ってきた職人がいることは、当店にとって大きな力です。うなぎは、ただ焼けばいいものではなく、扱い続けてきた中で身につく部分も多い仕事だと思います。最近はうなぎ屋も増えてきていますが、当店の一番の強みは、創業七十二年の間、注ぎ足してきた秘伝のタレだと思っています。何度も何度も注ぎ足してきたタレは、当店のアイデンティティです。なので、簡単に再現できるものではありませんし、当店の特徴として大切にしているものです。お客様に支持していただいている理由の一つも、そこにあるのではないかと思っています。長く続いてきた店としての歴史と、うなぎに向き合ってきた職人の仕事。そして、創業以来注ぎ足してきたタレ。それらを大切にしながら、これからも店を続けていきたいと思っています。

ーお客様からは、どのような評価をいただくことが多いですか。

もちろん、「おいしい」と言っていただくことはあると思います。ただ、それだけではなく、安心感のようなものを感じていただけているのではないかと思っています。そういった意味では、「懐かしいな」と感じていただける部分もあるのかもしれません。うなぎは、ただおいしければいいというものでもないと思っています。店に入った時の空気感や、店舗の雰囲気も含めて、その時間を感じていただくものだと思います。また、料理だけではなく、店全体から感じる雰囲気も含めて、「また来たい」と思っていただけることが大切だと思っています。親子三代で来てくださるお客様がいることも、そういう安心感や懐かしさが少しでも伝わっているからなのかもしれません。

次の世代へ——これからの目標

ー今後、一年後、三年後、五年後、十年後に向けて、どのようなことを目指していますか。

十年後には、春日井で一番いいと思っていただけるうなぎ屋にしたいという目標があります。そのためには、今いる職人の力に頼るだけではなく、次の世代を育てていくことが必要です。長年働いてくれている職人がいることは、本当にありがたいことです。ただ、職人の高齢化という課題もあります。うなぎを扱える若い人たちが、まだまだ少ないと感じています。だからこそ、若い人たちを育てていきたいです。十年後も、お客様に安心してうなぎを届けられる体制を整えていくことが、大きな目標です。職人が技術をつなぎ、うなぎをきちんと扱える人が育ち、これから先も変わらずお客様に提供し続けられる店にしていきたいと思っています。三年後くらいには、今人気のあるうなぎの骨せんべいを、少しずつ通販で広げていけたらと考えています。通販を主力にするというよりも、利用していただける方を少しずつ増やしていけたらというイメージです。なぜなら、通販に力を入れすぎて、本業がおろそかになり、店の味や仕事に影響が出てしまっては本末転倒だからです。あくまで本業を大切にしながら、できる範囲で広げていく。そのバランスを大切にしたいと思っています。うなぎ料理専門店として、これからも一つひとつのうなぎを大切に扱い、職人の技術を次の世代へつないでいく。そして、来てくださるお客様に「懐かしいな」と感じてもらえる店であり続けたいです。人生の中で、また食べたくなる味がある。家族と過ごした時間を思い出せる店がある。そんな存在になれるように、これからも店づくりを続けていきたいと思っています。

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