HAIR SALON禅-7938
オーナー 井上 義崇
健康を守り、一人ひとりと長く向き合う——30年続く美容室を目指して大切にしてきたこと

誘われて始めた美容の道——「30年続ける」と決めたスタート
Q. 現在の仕事につながる原体験を教えてください。
もともと僕は、調理師になりたいと思っていました。
高校生のときにアルバイトをしていたのですが、そのアルバイト先に、美容の専門学校に通っている先輩がいたんです。その先輩から美容の世界に誘われたことが、今の仕事を始めるきっかけになりました。
最初は誘いに断りきれずに入ったようなところもありましたし、3カ月ほどで辞めるつもりでした。ただ、実際に働いてみると美容の仕事が楽しかったんです。それで、そのまま続けてきて、現在に至っています。
最初から美容師になると強く決めていたわけではありません。人から誘われたことをきっかけに始めた仕事ですが、やってみたことで、自分にとっての楽しさを見つけられたのだと思います。
Q. 起業を決めたとき、どのような覚悟を持ちましたか?
起業すると決めたときに、「とりあえず30年間は必ずやり続ける」と決めました。
お店を始める以上、簡単に辞めるのではなく、長く続けていこうという気持ちでスタートしました。このお店をオープンしたときから、30年間続けることを一つの目標にしています。
Q. この仕事を「自分がやる意味がある」と感じるのは、どのようなときですか?
やはり、お客様に喜んでいただけたときですね。
美容の仕事は、お客様の反応を直接、目の前で感じることができます。施術を終えたときに喜んでいただけたり、満足していただけたりする瞬間がたくさんあります。
そうしたお客様の姿を直接見られることが、この仕事を続ける意味につながっています。
“起業すると決めたときに、「とりあえず30年間は必ずやり続ける」と決めました。”
苦しかった時期と、支えてくれた人たち
Q. 経営を続ける中で、特に苦しかった時期を教えてください。
最初のお店をオープンしてから3年間くらいは、お客様が定着するまでが大変でした。
お客様がすぐに増えるわけではありませんので、特に資金面では苦しい時期がありました。お店を知っていただき、何度も通ってくださるお客様が増えるまでには、やはり時間がかかります。
その後、最初のお店をオープンしてから6年後に、支店となる「花鳥風月店」をオープンしました。そちらも軌道に乗るまでには、3年ほどかかりました。新しいお店を立ち上げたときは、最初のお店と同じように、資金面で苦しい時期がありました。
また、スタッフが辞めていくときも、経営者としては苦しいですね。人が辞めることになったときは、「これからどうしよう」と考えることもありました。
Q. 苦しい時期には、何が支えになりましたか?
一番の支えになったのは家族です。
また、お客様にも支えていただきました。長く通ってくださるお客様がいることや、必要としてくださる方がいることは、お店を続けていくうえで大きな支えになっています。
スタッフが辞めて人が少なくなったときには、残っているスタッフたちが、それまで以上に頑張ってくれました。大変な状況の中でも、今いるスタッフが力を尽くしてくれたことにも支えられています。
家族やお客様、スタッフなど、周囲の人たちに助けてもらいながら、ここまで続けてくることができました。
“禅を学ぶ中で、人間としての心の在り方を考えるようになりました。”
撤退という決断——アーユルヴェーダ・スパサロン
Q. これまでの経営の中で、最も大きな意思決定は何でしたか?
支店として運営していた、アーユルヴェーダ・スパサロンを閉店すると決めたときです。
そのサロンでは、インドのアーユルヴェーダを取り入れたスパを行っていました。オープンして5年目で閉店することになったのですが、そのときに、撤退するのか、それとも、もう少し攻めて続けるのかという判断をしなければなりませんでした。
続けたい気持ちもある中で撤退を決めることは、これまでの意思決定の中でも特に大変でした。
Q. 撤退を決めた際の判断基準を教えてください。
サロンで働いていたセラピストの一人が、家庭の都合で辞めることになりました。その後、新しいセラピストが入ったのですが、売上や資金面などを含め、運営を続けていくことが難しくなってきたことが、最終的な判断につながりました。
ただ、自分の中では、機会があれば、もう一度挑戦したいという気持ちはあります。
一度撤退を決めたからといって、アーユルヴェーダへの思いや取り組みたい気持ちがなくなったわけではありません。
“髪をきれいにすることはもちろんですが、そのために身体や健康へ大きな負担をかけてしまっては意味がありません。”
禅との出会いが変えた価値観
Q. ご自身の価値観が変わった出来事はありますか?
学生の頃から、僕はその場その場で生きてきたようなところがありました。あまり先のことを考えずに過ごしていたと思います。
あるとき京都へ行き、お寺でお坊さんの説法を聞く機会がありました。その説法を聞いて、「今のままでは駄目だな」と感じたんです。
それをきっかけに、禅の修行に興味を持つようになりました。はまったというのか、趣味になったというのか、お寺へ行く機会が増え、お坊さんの説法を聞くことも多くなりました。自分でも禅について勉強するようになりました。
禅を学ぶ中で、人間としての心の在り方を考えるようになりました。そして、これからは人のため、世のために、自分の人生を捧げていかなければならないと考えるようになったんです。
この経験が、お店の名前である「禅」の由来にもなっています。
“今まで出会った方たちのどなたか一人でも欠けていたら、現在とは違っていたかもしれません。”
健康を第一に——「禅」らしさと、譲れない価値
Q. 売上や会社の成長よりも、優先して守っているものは何ですか?
一番は健康です。
自分の健康、スタッフの健康、家族の健康、そしてお客様の健康を大切にしています。健康でなければ、仕事も生活も何もできません。そのため、「健康を一番に考える」ということを、お店のコンセプトにも取り入れています。
美容室では、薬剤やシャンプー、スタイリング剤など、さまざまなものを使用します。禅では、人に対して害が出にくいものや、地球に流しても汚染につながりにくいものを取り入れるようにしています。
髪をきれいにすることはもちろんですが、そのために身体や健康へ大きな負担をかけてしまっては意味がありません。だからこそ、売上や成長よりも、まずは健康を守ることを大切にしています。
Q. 「禅」というお店らしさは、どのようなところにあると思いますか?
美容室ですから、お客様はヘアスタイルをつくるために来店されます。ただ、禅では、それだけではなく、健康に関することも何か一つ持ち帰っていただきたいと思っています。
髪や頭皮についてだけではなく、健康のことなども、日頃からお客様へお伝えしています。
ヘアスタイルを整えて終わりではなく、お客様の健康につながることも伝えていく。その点が、ほかの美容室とは違う、このお店らしさだと思います。
Q. 他店と比べたときに、絶対に譲れない価値を教えてください。
薬剤やカラー剤、シャンプー、パーマ液などについては、身体への負担が少なく、髪にもダメージを与えにくいものを選ぶことを大切にしています。
中には、このお店でしか使用できない薬剤もあります。
また、僕はインドのアーユルヴェーダのオイルを使用しています。そのオイル自体も、自分で作っています。
そのオイルをお客様の頭皮や髪に使用することで、できる限り負担をかけずに、艶や手触りを良くすることを目指しています。自分で作ったオイルを使っていることは、ほかのお店にはない部分だと思います。
髪をきれいに見せるだけではなく、頭皮や髪への負担を考えながら施術することは、譲ることのできない部分です。
“新しさだけを求めるのではなく、長く残ってきたものの価値も見失わないこと。”
出会ったすべての人への感謝
Q. これまでの中で、最も感謝している人は誰ですか?
一人だけを選ぶことはできません。今まで出会ったすべての方に感謝しています。
現在働いてくれているスタッフはもちろんですし、18年間ずっと支えてくださっているお客様にも感謝しています。
今まで働いてくれて、すでに辞めていったスタッフにも感謝しています。親や家族にも支えてもらいましたし、取引をしてくださる業者の方々がいなければ、今のお店はありません。
今まで出会った方たちのどなたか一人でも欠けていたら、現在とは違っていたかもしれません。本当に、これまで出会ったすべての方に感謝しています。
Q. 最近、心が動いた出来事はありましたか?
僕は九星気学鑑定士の資格も持っています。
九星気学では、生年月日から、その人にとって良い方角を出します。その方角へ引っ越したり、旅行へ行ったりする「方位取り」というものがあります。
その方位取りで、今年の4月に初めて福岡県へ行き、宗像大社を訪れました。
宗像大社は、三つの神社から成り立っている神社です。縄文時代や弥生時代の頃から続いていると聞き、実際にその場所へ立ったときに、心が動きました。
日本は長い間ずっとつながってきた国であり、昔の人もこの場所に立っていたのだと思うと、感動するものがありました。そして、この国がこれからも長く続いていったらいいなと思いました。
人手不足という業界の課題と、これからの採用
Q. 美容業界における、人に関する課題をどのように感じていますか?
美容業界は、カリスマ美容師ブームが終わった15年、20年ほど前から、ずっと人手不足と言われている業界です。
禅でも現在、スタッフを募集しています。
Q. 人材採用について、今後取り組みたいことはありますか?
現在も求人募集は行っていますが、禅では、まだSNSを十分に活用できていません。
これからはSNSも使いながら、求人活動に取り組んでいきたいと思っています。
お店が大切にしていることや、どのような職場なのかを伝えるためにも、SNSを活用していく必要があると感じています。
30年続くお店へ——地域と、次の世代へ残したいもの
Q. 10年後、会社がどのようになっていたら成功だと思いますか?
もともと、このお店をオープンしたときに「30年間続ける」と決めました。
そのため、10年後もこのお店が残っていたら、それが成功だと思います。
大きくすることや、店舗数を増やすことだけが成功ではありません。まずは、お店を続けていくことが目標です。
Q. 長くお店を続けていくために、最も必要なことは何でしょうか?
一人ひとりのお客様を大切にすることです。
一度来ていただいて終わりではなく、また来たいと思っていただき、リピーターになっていただけるようにすることが大事だと思っています。
目の前のお客様にきちんと向き合い、その方に喜んでいただく。その積み重ねによって、お店を長く続けていきたいと考えています。
Q. 社会や地域に、どのような価値を残していきたいですか?
現在、地域貢献として、いろいろなことに取り組んでいます。その一つとして、子ども食堂への寄付も行っています。
これから春日井市が発展していくことや、子どもたちが安心して暮らせる街になることにつながる活動をしていきたいと思っています。
自分たちだけが良ければいいということではなく、地域の中でお店を続けているからこそ、地域のためにできることにも取り組んでいきたいです。
Q. 次の世代へ引き継いでいきたい考え方はありますか?
僕は、お寺や神社など、日本に古くから伝わっているものが好きです。
新しいものを取り入れることも大切ですが、それだけではなく、長く伝わってきた伝統や文化を取り入れたり、残したりすることも、人生の中では大事だと思っています。
美容の世界でも、新しい薬剤や技術は次々に出てきます。ただ、新しいものだけを追いかければよいわけではありません。
美容には、昔から受け継がれてきた基本的な技術があります。新しい薬剤や技術を取り入れながらも、昔からある基本を大切にすることは絶対に必要です。
新しさだけを求めるのではなく、長く残ってきたものの価値も見失わないこと。その考え方を、次の世代にも引き継いでいきたいと思っています。
Q. これから働くスタッフや、お客様へ伝えたいメッセージをお願いします。
これから一緒に働くスタッフには、楽しく、仲良く、健康で元気に働ける職場にしていきたいと伝えたいです。
スタッフ同士で支え合いながら、一緒にやっていきましょう。
お客様の中には、カラー剤などによるかぶれや、施術中の頭皮の痛み、髪の傷みを心配されている方もいらっしゃると思います。
禅では、安心して施術を受けていただけるお店づくりに取り組んでいます。そうした部分を信頼して、来ていただけたらうれしいです。
これからも一人ひとりのお客様を大切にしながら、健康を第一に考え、30年間続くお店を目指して歩んでいきたいと思います。